実彩「もう、いいの?」
ランチを半分残して、西島さんは、
箸を置いた。
西島「ああ、冷めちゃったしね……
ちょっと、緊張もしてるし……」
実彩「今度は、和也じゃなく、
隆弘くんで、お母さんに会えるね。」
西島「素直に、喜んでくれるかな……」
実彩「きっと、大丈夫だよ。」
西島「ちょっと……怖いな……」
実彩「お姉さん達、待ってるから、
そろそろ行く?」
西島「だな……」
西島さんは、自分の車で来ていた。
白い色の普通車
車の車種は……?うとい私……
まだ新しく、車内は、無駄な物がなく、居心地のいい空間だった。
シトラス系のいい香り……
実彩「自分の車?」
西島「ああ、今日みたいに、
休みでも、直接現場に行くこともあるからね……」
実彩「休みでも、仕事とか大変ね。
彼女と……デートできないね?」
西島「……いないよ。
……女を乗せたのは、あんたが初めてだよ。」
……美樹さん……は?
彼女じゃないの?
実彩「與さんから聞いたけど、
幼馴染みの仲がいい、女の子がいるとか……」
西島「ああ、美樹?気になる?」
実彩「いえ……彼女かな、って……」
西島「ただの幼馴染みだよ。
でも、この車にはまだ、乗せてないな……」
実彩「……必要があれば、女の子も乗せるんだ。」
西島「……別に、誰でもって、
言う訳じゃないけど……」
実彩「そう……」
西島「和也とは、ドライブとかした?」
実彩「自分の車は、持ってなかったし……電車で色んな所に行ったよ。」
西島「そっか……じゃあ、今度……
一緒に、海に行こうか?」
実彩「え……?」
西島「あ……ごめん……」
言って、すぐに俺は後悔した……
実彩子さんは、亡くなった、
弟の和也の恋人だった。
俺に、誘う権利はない……
しばらく……沈黙が続いた……
西島「こっちだっけ?」
実彩「あ……そこ左……」
西島「ああ、そうだったね……」
敷地に入り、空きスペースに
車を止めた。
待ってたように、すぐにお姉さんは、外に出てきた。
ゆり「いらっしゃ~い。」
実彩「おじゃまします。
お母さんは……」
ゆり「日記帳返したら、落ち着いたみたい。」
実彩「よかった……」
ゆり「さあ、あがって。
西島くんも。」
西島「はい、失礼します……」
隆弘として、初めて母に会えることに、俺は、緊張していた。
直也「お……来たか。待ってたよ。」
西島「はじめまして、西島です。」
直也「ゆりから、聞いてるよ。
俺にとっては、君は和也と同じ、弟だ。遠慮するな、よろしくな。」
西島「はい。」
ゆりさんの旦那さんの直也さんは、
気さくな、いい人だった。
お母さんは、リビングのソファーに腰かけていた。あの、日記帳を胸にしっかりと抱きしめていた……
白いセーターに俺と和也がプレゼントした、ネックレスをつけていた。
実彩「お母さん、こんにちわ。」
母「実彩子ちゃん?……あ……」
母は、俺に視線を向けた。
ゆり「あのね母さん、この人は……」
母「和也!どこに行ってたの?
こんなに、心配させて……」
ゆり「母さん……違うよ、
この人は……」
西島「お姉さん、大丈夫です……」
ゆり「でも……」
西島「母さん、ただいま……」
俺は、和也の代わりでもいいよ……
それで、母さんが、安心するなら……
母「和也……もう、黙って、いなくならないでね。」
西島「はい……すみません。」
母は、俺に近寄り、俺の顔を
じっと、見つめた……
母「あなた……
和也じゃないわ。和弘さん?
会いたかった……」
母さんは、俺を……父親の和弘と
間違えていた……
ゆり「母さん、和也も和弘さんも
亡くなって、もういないのよ……」
母「そんなはずないわ……
じゃあ、この人は、誰?」
西島「母さん……隆弘です。
あなたが生んだ、もう一人の息子です。会いに来ました……」
母「隆……弘?
嘘よ……隆弘は、生まれてすぐに、
いなくなったのよ。」
ゆり「母さん、本当に……隆弘くんよ。和也にそっくりでしょ?」
母「……」
母さんは、俺の頬に手を当てて、
ゆっくりと、俺をみつめた……
昔の……
赤ちゃんの頃の俺を思い返していたようだった……
母「隆弘はね、よく泣く元気な子で、髪は、和弘さんに似て、ちょっと
クセっ毛だったの……
そう、こんな風に……」
母さんは、俺の髪を撫でた……
西島「母さん……」
母「隆弘……会いに来てくれたのね。
ありがとう……
ごめんね……ごめんね……
ずっと、ひとりぼっちにさせて……」
母さんは、俺を抱きしめながら、
泣いていた……
西島「母さん……ありがとう。
覚えていてくれて……うれしいです。」
母「和弘さんも、和也も……
私の前から、いなくなってしまったの……あなたは、いなくならないわよね?」
西島「はい……母さんのそばに
ずっといます。安心してください。」
母「よかった……」
母さんの涙が、俺のシャツを
濡らした……
少女のように、純粋な母さん……
母さんは、温かくて、
日だまりのような優しい匂いがした。
俺を覚えていてくれたことが、
素直にうれしかった……
和也……俺……
やっと、母さんの息子になれたよ。
お前の分も、母さん孝行するから……
ゆり「隆弘君、実彩子ちゃん、
うちで、晩御飯、食べていってね。
隆弘君、お昼まともに食べてなかったし、お腹空いたでしょ?」
西島「あ……はい。」
実彩「じゃあ、私もお手伝いしますね。」
ゆり「実彩子ちゃん、ありがと。
隆弘君は、何が好き?」
西島「特に、嫌いなものは、無いです。ばあちゃんが作ってたんで、
和食が多かったかな……」
母「……肉じゃがは?」
西島「大好物です。」
母「じゃあ、作りましょうね。」
母は、にっこり笑って、台所へ向かった。
母さんと、ゆり姉さんと、実彩子さんは、三人で仲良く、食事の準備を始めた。
時々、笑いながら……
その光景は、亡くなったばあちゃんのことを、思い出させた。
「隆弘、何を食べたい?
肉じゃがかい?」
西島「え~❗またかよ。
でも、ばあちゃんの肉じゃがは、
うまいから、鍋一つ、まるごと食べられるな(笑)」
「隆弘がそう言ってくれると、
ばあちゃん、作りがいがあるよ。」
ばあちゃんは、いつも、ニコニコして、優しかった……
嫌なことがあっても、親がいなくても、ばあちゃんの暖かさに、救われた……
西島(母さんが、生きてて、
俺に、飯を作ってくれるなんて、
夢みたいだな……)
母さんの隣には、しっかり者の姉さん。そして…笑顔の実彩子さん……
和也は、この中にいて、
本当に幸せだったんだろうな……
正直、和也に出会ったとき、
羨ましかった……
ねたみもした……
孤独な俺にとって、そばにいてくれる家族や恋人が欲しかった……
愛情に包まれていた和也は、他人に対しても、その愛情を自分の優しさで、みんなに分け与えていた……
誰からも愛された和也……
俺に、お前の代わりができるだろうか?
直也「隆弘くん、車だっけ?」
西島「はい……」
直也「そっか……泊まれば?
男同士で飲みたいな🍺」
西島「いや、明日仕事ですから、
また、今度に……」
直也「わかった!約束な……
けっこう、🍺いける口?」
西島「前は全然、飲めなかったんですけど、会社に入ってからは、つきあいもあって、少しずつ、先輩に教えてもらって、飲めるようになりました。」
直也「隣町のW建設だっけ?」
西島「はい。ご存知ですか?」
直也「俺、市役所だから、色々とね……
……日高君って、いるよね?」
西島「知り合いですか?」
直也「……まあ、仕事上でね。
優秀な設計士で、やり手の営業マンらしいね……」
ゆり「何の話?」
直也「あ……いや、ちょっとね。
手伝う?」
ゆり「ありがと。
テーブル拭いて、お箸並べてね。」
西島「俺は……?」
ゆり「今日は、いいの、座ってて。
次からは、よろしくね。」
直也「こいつ、人使い荒いから、
気を付けろよ。」
ゆり「直くん……?」
ゆり姉さんは、直也兄さんの
顔スレスレに顔を近づけた……
直也「は、はい……」(*≧д≦)
ゆりの大きな目が、俺をまっすぐに見る……
ゆり「愛してる?」
直也「は、はい!愛してます~❗」
ゆり「よろしい。」
直也「……たく、もう……」
ゆり「何か、言ったかな?」
直也「いえ、別に……」
「いっつも、これだよ~」
俺に、直也さんは小声で言った。
西島「仲良くて、羨ましいです。」
直也「まあな🎵
隆弘君は、彼女いないの?」
西島「はい、まだ……
仕事も半人前ですから……」
直也「実彩子ちゃん、性格もいいし、可愛いし……どうだ?」
西島「……でも、さすがにそれは……
和也、亡くなったばかりだし……
俺達は、双子ですけど、和也の代わりは無理ですし……」
直也「好きになったらさ……関係ないよ。欲しいと思ったら、行動しないと……」
西島「え……そうですか?」
直也「好きな人の心の中に、別の誰かがいても、ひたすら、アタックして、今の幸せがあるんだ……」
西島「そうなんですか?」
直也「あ……たとえばの話だよ。」
西島「はあ……」
ゆり「直くん、できたよ~
並べて~」
直也「は~い🎵」
西島「俺も、手伝います。」
肉じゃが、唐揚げ、サラダ、
お漬物、湯豆腐……
みんなで、笑いながら囲む、
暖かい食卓……
ばあちゃんが亡くなってから、
久々だった……
うれしさで、胸が苦しくなり、
涙が、出そうになった……
ゆり「隆弘君……?
おかず……嫌いなのあった?」
西島「……いえ……」
母「隆弘……母さんが作ったのよ。
食べてね。」
西島「はい!いただきます。」
俺は、泣きそうになるのをグッとこらえて、肉じゃがを一気に食べた。
……おいしい……
ゆり「ほら~むせるから、ゆっくり食べてよ。おかわり、たくさんあるからね。」
西島「はい。」
直也「は~い❗俺も~」
ゆり「直くんは、自分でおかわりしてよ。」
直也「それは、ないべ。(T_T)
ゆりちゃん……」
ゆり「はは……」
ずっと、ここにいたいと思った……
この、暖かい空間に……
🌃✨✨✨✨✨
母「……帰るの?」
西島「また、すぐに来ます。
肉じゃが、最高においしかった。」
悲しそうな、母の手を握り、
俺も帰りたくはなかったが……
せっかく、隆弘として受け入れられたんだから、あせらずにいようと思った。
西島「じゃあ、母さん。
実彩子さんを、送っていきます。」
実彩「ご馳走様でした。
また、来ますね。」
ゆり「うん、待ってる。」
直也「今度は、飲もうな🎵」
西島「はい。じゃ……」
不安そうな顔で見送る母を
ゆり姉さんが、なぐさめていた。
西島「行こうか……」
実彩「はい……」
🚕🚗🚕🚗
実彩「良かったね……」
西島「うん……家、どこ?」
実彩「あそこに、大きなスーパーの看板見える?
その先の信号機を左に曲がると、
すぐです。」
西島「わかった……」
実彩「……?」
西島さんは、スーパーの駐車場に入り、目立たない端に車を停めた。
実彩「……買い物?」
西島「実彩子さん……
俺……泣いていいですか?」
実彩「え………?」
車のエンジンを切り、シートベルトを外して……
彼は、声をたてずに泣き出した……
実彩「西島さん……」
西島「やっと……やっと、
母さんに、隆弘と呼んでもらえた。
さっき、母さんの前で、うれしくて、泣きそうになって……
家に帰って、一人で泣こうと思ったけど……
ごめん……泣かせて……」
実彩「西島さん……」
突然の彼の涙に、
胸がきゅん、とした……
それは、和也を思う気持ちとは、
違っていて……
いつも、強がっている彼がいとしくて……
私は彼を抱きしめた……
私たちは、車の中で……
自然に、抱き合い……
キスを……していた……
🌃✨✨✨✨✨
西島「……ごめん……悪かった。
忘れて……送るよ。」
実彩「……」
まだ、胸がドキドキしていた……
彼は、スタートボタンを押して、
車を発進させた……
