西島「…たく。どこ、行ったんだ?」

日高病院を出て、車で町の中をぐるぐる回った。

夜明け前で、まだ薄暗く
人はほとんど、歩いていなかった。

駅にも行ったが、待合室には誰もいない…


ひんやりした空気が、俺を不安にさせる。


西島「やみくもに探してもダメだな。
…そうだ!」


俺は、千晃に電話した。


とぅるる〜とぅるる〜


千晃「……はい……」

あきらかに寝起きらしき、機嫌の悪い声の千晃が、出た。

西島「朝早く、ごめん。寝てた?」

千晃「…うん、え?

    隆弘、どうしたの?」

西島「あのさ、もしかしてだけど…
サクラさん、そっちにいない?」

千晃「サクラ?いないよ。」

西島「…だよな。」

千晃「どした?
もしかして、ケンカした?」

西島「…そんなんじゃないけど。ちょっと、連絡つかなくてさ。
行きそうなとこ、知らないかな?」

千晃「…うーん。

…思いつかないなぁ。

サクラ、あんまり出歩かないしね。」


西島「そっか…
ごめん、朝早く起こして…」


千晃「ほんとだよ。あ!」


西島「何?」


千晃「ほら、この間、3人で海に行ったよね。

あの時、隆弘様子が変だったけど、サクラも隆弘もすごく楽しそうで、また来たいって言ってたよね?」


西島「…海?」


千晃「うん。2人とも、キスしてたし。

正直、ショックだったよ。」


西島「え!キ、キス〜!」


小太郎…あいつ!


千晃「どうしたの?

    まさか、忘れた?」


西島「いや、何でもない…」


千晃「隆弘?」


西島「千晃、その海って何処?

道順、教えて。行ってみるから。」


千晃「……いいけど。覚えてないの?

   何か、変だよ。

      隆弘大丈夫?」


西島「とにかく、急ぐんだ。

   昼までにみつけないと。」


千晃「一緒に探す?」


西島「いや、大丈夫だよ。

     場所だけ教えて。」


千晃に俺が2人いるのが、わかったら、色々面倒だし。

尚更、アイツが猫の小太郎だなんて、信じてくれないだろう。

かえって、千晃の会社の雑誌のネタにされる。



西島「場所は大体わかった。

    千晃、ありがとな。」


千晃「あなた達、付き合い始めたばかりなんだから、ケンカしないでよ。」


西島「ああ、わかったよ。またな。」




電話を切るとすぐに、着信があった。


日高先生から?

 サクラさん、見つかったのかな。


西島「はい、サクラさん見つかりました?」



日高「今、彼女から電話きたんだ。

○○浜にいるそうだ。

電車がなくて帰れないそうだ。」


西島「やはり、そこでしたか。

すぐに向かいます。」


日高「もうすぐ、タイムリミットの昼だ。

西島、急げ!」


西島「わかってます。」


本当に人騒がせな猫だ。


おまけに、サクラさんにキスしたって?


あいつ…絶対、許せない…




幸い、道は混んでなくて、思ったよりも早く着いた。


急いで車を止めて、俺は駅に入り、二人がいるかどうか、中を見渡した。



「あ……」


壁側にある待合室のベンチに、二人は座っていた。

まるで、恋人同士のように、体を寄せあって…


一瞬、時が止まったように、感じた。


映画のワンシーンのように、一枚の絵の様に、その空間だけが異世界のようだ。




…でも、サクラさんの隣にいる俺は、

俺の姿をしていても、俺じゃない。



サクラ「西島さん…?」


西島「あ、うん。迎えに来た。」


サクラさんの声に、俺は現実に戻された。


サクラ「迷惑かけて、ごめんなさい。

  スマホも忘れて来てしまって

      連絡もできなくて…」


西島「全くだよ。随分探したんだ。

無事で良かった。」


サクラ「小太郎に、

最後だからと言われて、つい…」


西島「とにかく、昼まで時間がない。

急いで病院に戻らないと。」


サクラ「小太郎の体が消えかかってるの。元気ないし…」


小太郎は、ぐったりして、足は、ほとんど透明で見えなくなっていた。






西島「俺が乗せるから、サクラさん車のドアあけて。」



サクラ「ええ…」



抱きかかえると、不思議と消えているのに、足の感触はあった。

ただ、すごく、軽い…



西島「すぐ、病院に行くから頑張れよ。」


小太郎は、ぐったりして返事がない。



西島「ヤバいな。どう急いだって、

昼は過ぎるな…」


サクラ「どっちも消えたらどうしよう。

私のせいだね…」


西島「サクラさんのせいじゃない!

   とにかく、急いで戻ろう。」


サクラ「うん…」



そう、サクラさんのせいじゃない。

何もかも、

   わがままなこの猫のせいだ…


でも、なんとかして間に合わせないと


万が一、俺にそっくりなコイツと、

元の猫が両方いなくなったら、

       サクラさんが悲しむよな…


帰りも、道が混んでないといいが…







🏥


日高「ん?

血圧が下がってるな。脈も不安定だ。

さっきまで、異常なかったのに。

12時までに戻らないと、本当にこの猫も、消えてしまうんだろうか?」


病室の時計の針が、カチカチと真上に近づいてくる。


先に回復した白い猫が、心配そうに見上げている。


日高「大丈夫だよ。

    きっと間に合うから。

     あんまり心配するな。」




そう言って、白い猫を抱き上げ、猫の小太郎の側におくと、

「ミャア〜」と鳴いて、小太郎の顔を舐めた。



しゅーた「小太郎、何寝てんだよ。

さっさと起きろよ!

このまま、いなくなるなよ。

お前がいないと、オレ…」


小太郎とは、家が近くで、

   自然に仲良くなった。


飼い主が亡くなって、住む家がなくなった時も、心配して一緒に暮らそうかと思ったが、何とかサクラの家猫になり、ほっとしたのに…


次から次と、トラブルが起こり、

今は瀕死の状態らしい。



しゅーた「小太郎、戻ってこい!」







バタン!とドアが開いた。


ハアハアと息を切らして、小太郎をかかえて病室に入る。


よし!まだ12時前だ。


西島「先生、戻りました!」



日高「やっと来たか。

猫も前より状態が悪くなってる。

早く、ベッドに運んでくれ!」


サクラ「先生、心配かけてすみません。

体が透けてきてるんです。

…助けてください!」


日高「透けてる?」


見ると、手と足の半分が透けて失くなっていて、目を閉じてぐったりしている。



時計は今にも、昼の12時になろうとしていた。



猫の状態もさらに悪くなり、

   呼吸も苦しいようだ。


日高「さあ、2つの体が揃った。

  あとは、見守るだけだな。」



サクラ「見守るだけ…そんな、

      何もできないの?」







小太郎がゆっくり目を開けた。


小太郎「さく…ら…」


サクラ「小太郎。気づいたの?」


小太郎「うん…ちょっと

       息がくるし…」



サクラ「…小太郎。」


そっと頭を撫でると、

  小太郎がふっと笑った。


小太郎「サクラ、色々ありがと…

  サクラと一緒にいられて…

             楽しかった…よ…

     海も楽しかった…」


サクラ「うん…」


小太郎「俺…猫に戻んのかな。

サクラともう話…できないな…

…でも、サクラのこと大好きだよ。

…忘れない…ずっと…

   サクラも俺のこと…忘れないで」


サクラ「……小太郎…」


あふれる涙が、とまらない。


小太郎「心配かけて、ごめん。

あと…サクラのことよろしく。」


小太郎が俺に向かって言う。


西島「ああ、わかった。」




日高「…時間だな。」



🕛

ボーン、ボーン


待合室の時計が12時を知らせる。


病室にいる全員が、小太郎を見た。



小太郎「サクラ…おなか…すいた。

チャ…ハン、食べたい…な…」


そういうと…

 小太郎がフーッと息を吐いた。




サクラ「小太郎!」


小太郎の体がキラキラと銀色に光り

みるみる消えていく。


サクラ「小太郎!」


西島「サクラさん、ダメだ!」


小太郎の体を、抱きしめようとするサクラさんを俺はギュッと後ろから、引き戻した。



小太郎と一緒にサクラさんが消えてしまう気がした。


サクラ「いや!消えちゃダメ…」


あっという間に、小太郎の体は消え、

白いシーツのベッドだけが、目の前にあった。




ピーピーピー


日高「おい、嘘だろ?」


猫の小太郎の心音が止まった。


西島「こっちもダメか?

   時間が遅かったのか…」



サクラ「私のせいだ…

  小太郎、ごめんなさい…」


日高「まだ、諦めるな。」


  猫の心臓を押し続けたが、

      反応がない……



日高「ほら、みんな待ってるぞ。

  帰ってこい!」



「にゃーにゃー!」


白い猫も心配そうに、小太郎の顔を舐める。





*・゜゚・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゚・*


「しょうがない子ね。」


小太郎「かあ…さん?」


会いたかった母さんが、

  微笑んで、目の前にいた。



「さあ、戻りなさい。

  あなたの居場所はここじゃない。」


小太郎「やだ!

    母さんと一緒がいいよ。」



「まだ、早いわ。

その時になったら、

   必ず向かえに来るから。」


小太郎「母さん。

  一人じゃ、寂しいよ。」 



「一人じゃないでしょ?

あなたのこと、心配してくれる人がたくさんいるじゃない。」



小太郎「サクラ、かあさん、とーさん?

それと…あいつ?」



「そうよ。あなたの兄さん。

     仲良くするのよ。

あんなにあなたのこと助けて、

心配してくれたでしょ?

  あの子は、優しい子よ。」


小太郎「にい…さん?」


「…時間がないわ。

さあ、眼をつぶって…

 あの光の所に行きたいと、

      強く願って!」


母さんは、頭上の眩しい光を指さした。

  

小太郎「あの、光?」


「そうよ。小太郎。

ずっと見守ってるからね。

     ……幸せにね。」


小太郎「わかった。

  母さん、さよなら…」


母さんは、俺の頭を撫でると

にっこり笑った。


俺は、いつの間にか猫に戻っていた。


強い光に強く念じた。


サクラ! 今、行くよ!



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*



トクン…トクン…



日高「お!生き返った。」


小太郎の心臓が正常に動き始めた。



日高「脈も血圧も大丈夫だ。

全く、運の強い猫だな。」



サクラ「良かった…」


崩れ落ちそうになる、さくらさんの体を支えながら、俺もホッとしていた。