私が神宮外苑再開発に賛成する理由 | トイプーお出かけ日記

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あと、たまに時事問題について書いたりもします。

今回は明治神宮外苑の再開発問題について。

 

私は明治神宮の内苑と外苑の間の地域に居住しており、大好きな場所ですし、それなりに思うところがあるので、後々振り返れるようブログに記録を残すことにしました。

 

 

 

 

ご存じの方も多いと思いますが、この話、混迷の度を深めております。

 

再開発を推進している事業者(明治神宮、三井不動産、伊藤忠商事等)と反対しているイコモス(ユネスコ系のNGO)の双方の意見がかみ合わず、膠着状態に陥っているというのが現状だと思います。

 

私自身の意見は、

  • 事業者が掲げる再開発を行う目的については賛成
  • その目的を達成するための現実的かつ持続可能な事業計画とファイナンス(イニシャルコストとランニングコストの調達)を事業者は提示していると思われる
  • その一方でイコモスの案は樹木の保護に力点を置くばかりでファイナンス案は非現実的

なので、事業者案で進めるしかない、です。

 

より具体的に申し上げると、以下の通りです。

 

 

1.再開発事業を行う目的について

今年の4/14に事業者側が公表した「神宮外苑地区まちづくりを進める意義等について(下記URL)」には以下の通り記載されています。

 

 

これらの事業の意義について、以下の理由から私は賛成しています。

 

(1)施設の老朽化

  • 神宮球場は1926年、秩父宮ラグビー場は1947年の完成で、相当程度老朽化が進んでいる。
  • そのため、多くの観客が集まっている時に首都直下地震が発生すると甚大な被害が発生する可能性がある。
  • そうしたリスクを考えると、耐震性強化やバリアフリー対応など、現在の安全基準に沿った施設へ建て替える必要がある

 

(2)オープンスペースや回遊性等の不足

  • 絵画館前の草野球場は神宮外苑で最も大きなスペースであるが、フェンスで覆われており、立ち入ることができない
<草野球場のフェンス>
  • この草野球場に限らず、神宮外苑はテニスコート、ゴルフの打ち放し(現在解体中)、バッティングセンター、室内球技場、にこにこパークといった有料施設が大半で、一般に開放されているスペースはほとんどないので、今回の再開発でそうしたスペースを増やして欲しい(ただし、建国記念文庫(現在工事中)や御観兵榎の近辺は、時間限定で無料開放)。
<現状の施設配置>

 

 

なお、こうした「再開発の意義」については、反対派も同意見なのではないかと私は思っています。

 

と言うのは、彼らは闇雲に反対しているのではなく、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、オープンスペースを増やすような代替案を出しているからです。

 

という訳で、双方の案(図面)を比較してみます。

 

①事業者案

明治神宮にとって大きな収益源である神宮球場の営業を継続できるよう、先に秩父宮ラグビー場を解体してその跡地に新球場を作り、新球場ができるまで旧球場を使い続ける案になっています。

 

その他のポイントは下記の通りだと思います。

  • 絵画館前の草野球場が開放された広場となる(神宮外苑ができたころの景観を復元)
  • 新球場を囲むように高層ビルができる

 

因みに、創建当時の絵画館前広場はこんな感じでした。

 

 

 

②イコモス案

事業者案と異なり、神宮球場も秩父宮ラグビー場も今と場所が大きく変わらないので、神宮球場の解体、建て替え工事中は球場収入がゼロになります。

また、高層ビルは建築されず、絵画館前は芝生広場になります。

 

 

②両者は何を揉めてるのか

さすがに双方が出している資料をすべて確認する気にはならないので、きちんと把握できているか自信はないのですが、大まかな流れは、

  • 9/7:イコモスがヘリテージアラートを公表
  • 9/29:事業者がヘリテージアラートへの反論を公表
  • 10/4:イコモスがヘリテージアラートの根拠を公表

だと思います。

 

論点については、素人の私には理解できないことが多いのですが、「それってそんなに重要?」と思うのも幾つかあります。

 

例えば、イコモスはヘリテージアラートで

  • 再開発により 3.4 ヘクタールの公園と約 3,000 本の文化的資産としての樹木が失われる

と主張しているのに対し、事業者は

  • 3.0m 以上の高木の伐採樹木は合計 743 本だが植樹は837本で94本増加する
  • 風致地区内の3.0m 未満の低木は3,028 本伐採されるが、その 約 9 割は群生低木(つつじ等)である
  • 地区全体の伐採本数は未算出だが、伐採以上の植樹を行う計画なので、開発後、地区全体の樹木の本数は増加する見込み
と反論し(下図参照)、
 
 
それに対しイコモスが
  • 3m 以下の低木は、外苑をおとずれる人びとが、最も身近に触れ合うことができる緑であり 極めて重要
  • 事業者は低木を含めた毎木調査表を、環境影響評価審議会に再提出し、伐採本数の正確な公表と説明を行うべき

と主張している、といった感じなんですが、この話って今回の再開発の是非を論じる上でそんなに重要なんですかね。

 

私は、

  • 現地の低木の多くがどこにでもあるような街路樹なので、3,000本の低木を「文化的資産」と呼ぶことに違和感がある
  • 3m以上の高木を含め、開発後に樹木の本数は増加する

ので、なぜイコモスがそこまで拘るのか正直理解できません(意識の高い人たちからすると、私のような人間は「バカ」にしか見えないんでしょうね)。

 

 

 

 

あと、他にもイコモスの主張について、個人的に理解できず、違和感を感じることがあります。

 

 

2.イコモスの主張に対する違和感

今回のヘリテージアラートでは、冒頭に「17世紀から続く庭園都市パークシステム」という説明があるんですが、もうここから何を言ってるのか理解できません。

 

 

 

17世紀って江戸時代ですよねぇ…。

 

さらに私「庭園都市パークシステム」についても全く知らなかったのでネットで調べてみたところ、東京大学学術機関リポジトリのレポートに関連する記述を見つけることができました。

 

 

 

このレポートによると、江戸は庭園モザイク都市だったとのことですが、そもそも野球場やラグビー場、テニスコートやゴルフの打ち放し、バッティングセンターが大部分を占める神宮外苑のどこが「庭園」なんですかね(100年前の「思想」はそうだったのかもしれませんが)

 

また、レポートには「パークシステム」について下記のような記述があります。

 

 

 

ここで決定的に重要だと思うのは、「パークシステム整備の財源は開発利益の還元」という考え方です。

 

 

ところが前述のイコモス案は、財源を寄付とクラウドファンディングとしており、開発利益の還元という考え方を採っていません。

 

イコモスは、大阪の吹田スタジアムの建設資金が99.5億円の寄付と35億円の助成金で賄われたことを引き合いに、外苑再開発も過去の事例に「学べ」と主張しています。

 

 

ところがそもそも今回の再開発は吹田のスタジアムをはるかに超える金額が必要になるんですよね。

 

最近できたばかりのエスコンフィールドの事業費は約600億円と言われており、外苑再開発は神宮球場に加え秩父宮ラグビー場の建設や解体も行うので、競技場関連だけで総事業費は1,000億円規模になると思われます。

 

吹田スタジアムは99億円の寄付を集めるのに3年かかったようなのですが、神宮外苑で1,000億円の規模を集めるのに一体どれだけ時間がかかるんですかね。

そのお金が集まるまで、神宮球場の震災リスクの抜本的対策は不要なんでしょうか?

 

と言うか、普通に考えて1,000億円の寄付やクラウドファンディングなんて無理ですよね。

 

ですので、私はイコモス案はファイナンスが実現不可能な極めて無責任なものであると思っています。

 

 

さらにイコモスは、

  • 内苑の森を東京都に寄付
  • 内苑の芝生広場を借地もしくは寄付
  • 本殿の周りの森は特別緑地保全地区に指定

することにより、内縁の維持費を軽減することができると主張しています。

 

 

これって、宗教施設内の土地の管理を税金で賄えばよい、ということだと思うのですが、これって憲法20条(いわゆる政教分離)、憲法89条に照らし合わせて問題ないんでしょうか。

 

  • 第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。 いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。 ② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。 ③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
  • 第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

寄付したなら宗教施設ではない、という整理をしているのかもしれませんが、宗教法人法3条を見ると、寄付した後であっても「境内地」に該当するように読めます

 

 

仮に私が法律を誤認しているとしても、イコモスの理屈が通るなら、明治神宮に限らず宗教施設等の収支が厳しくなった場合、国や自治体に寄付すれば管理費を税金で賄ってくれる、となってしまうんですが、そんなこと認められるべきではないと思います。

 

ちょっとわき道にそれてしまいましたが、以上が私がイコモス案に対して違和感を抱き、イコモス案には乗れないと思っている理由です。

 

 

3.イコモスの活動について

ついでと言ってはなんですが、イコモスの活動そのものについても調べてみました。

 

まず日本イコモスのここ数年の提言等の件数と会計上の収支実績から。

 

2019年、2020年は開店休業のように見えるのですが、2021年末に神宮外苑再開発に関する提言を開始し、それ以降は提言数が爆増しています。

その一方で、活動にかかるコストは大きく変わっていません

 

これって一体どういうことなのか、理由が分からないので、2023年の収支がどうなるのか(収益の大半は会費であり大幅増が見込めない中、コストは増えるはず)、注視したいと思っております。

 

 

 

次はヘリテージアラートについて。

 

イコモス本体のホームページを確認したところ、現時点で発出されているアラートは、神宮外苑再開発の他に世界で3件しかありませんでした。

 

  • Helsinki Govt.Palace and Quarter
  • Stadio Artemio Franchi Florence,Italy
  • Philadelphia Police Headquarters

 

彼らの基準では、神宮外苑再開発はアジアで唯一の最大級に許しがたい歴史的遺産の破壊行為ということですな。

 

 

もうそれ自体に私は違和感しかないんですが、イコモスのHPには神宮外苑再開発について次のように記載されています。

 

その中で特に違和感を感じる点について、赤太文字で記載しました。

 

ICOMOS, together with its Japanese National Committee, is issuing a Heritage Alert to stop the destruction of approximately 3,000 trees and loss of open park space in Jingu Gaien(3000本の大半は低木です。また、神宮外苑の大半は特定少数の人のための有料のスポーツ施設です), Tokyo, Japan. ICOMOS strongly warns against the construction of skyscrapers in a world-renowned park(神宮外苑は世界的に有名な公園なんですね、知りませんでした), without consultation with citizens and stakeholders. The redevelopement project is scheduled to begin in September.

 

Jingu Gaien was created as a counterpart to Jingu Naien, and has a unique structure unparalleled in the history of parks around the world(世界の公園史上例がない、とのことですが、前述のとおり草野球場やゴルフの打ち放し、テニスコート、バッティングセンターがあります). Jingu Naien was intended to be an "eternal forest"(イコモス案は「永遠の森」の維持を、クラウドファンディングと寄付で賄おうとするものです). In contrast, Jingu Gaien was designed to create a “forest for the people”. The park forms the core of the Garden City Park System in Tokyo and is an outstanding example of a citizen-owned park(神宮外苑は事業者の所有地です), unparalleled in the history of urban parks worldwide.

 

Urban parks are places for people’s recreation and also contribute to maintaining rich biodiversity. They mitigate the heat island effect in cities and provide shelter in case of natural disasters such as major earthquakes. Jingu Gaien, created through donations and voluntary work of citizens, represents an outstanding cultural heritage, unparalleled in the history of urban parks worldwide(いくらなんでも褒めすぎではないでしょうか).

 

 

 

私は今回イコモス案に対して否定的なことを申し上げましたが、もし彼らの提言がなかったら、事業者側が伐採本数を減らしたり、新球場のセットバックを検討することはなかったかもしれないので、そうした点において彼らは評価されるべきだと思います。

 

その一方で、原理主義的というか、上から目線というか、自分たちが正しいんだから従えと主張をするばかりで、歩み寄りの姿勢が見られないように思うんですよね。

少なくとも、現実的なファイナンス案を出さないと、彼らの主張が幅広く理解を得ることは難しいように思います。