亜急性病棟A


私が入院していた
病棟の名前


エレベーターで
その階まで昇ると
ガラスの壁がある
鍵がかかっている


そちら側


こちら側


という風に
ガラスの壁一枚で
通常の生活と
精神病院での生活が
隔てられている



比喩的ではなく、
本当にガラスの壁、一枚の差




精神障害といっても、
これは
脳みその何かしらの
異常信号であると
私は考えていて



私の脳ミソが
正常に作動している時は

冷静に
その病棟の中を
見て回る事もできた



回廊になっている

私は個室が与えられていたけれど
鍵はかかっていないので

読書、寝る、
その後は回廊にそって
他の病室をみることもできた

その時、
私は金髪の刈り上げで
それだけでも
十分、

『ふつう』

の暮らしの中でも
目立っていたとおもうが、


病棟のなかでは
相当に目立っていた
新人だったはず




『精神障害』

として
入院している人達は
老若男女
様々


もう、
車椅子のおじいちゃんも
いたし


まだ、中学生の女の子もいた


症状は人各々なので
詳しくわからないが、

各々
苦しみがあり、
入院までの課程もある

こう言ってはなんだけど
あまりに個性的な集団で

(もちろん、私もその一人だろう)

人の多様性を目の当たりにする




初日、
夕食

私はトレーを受け取ると
部屋に戻るが
ホールで食べる方もいる
なんともなし、
見ていると


その中のひとりの
おじさんは、

食べている途中



ヒャッ!



と、
突然飛び上がる


と、
何事もなかったかのように
ストンと席に座ると
もくもく、食事の続きをする


回りの方はもう、
慣れているらしく
特に驚いた表情もない


ショックをうけ
呆然と
私がみている間にも

また、



ヒャッ!



と、
飛び上がる



何だかわからないが、
数度、食事を受取りに
ホールに行く度、

おじさんの
ヒャッ!
は続いていた



朝、
共同のシンクで
顔を洗っていると


おはようございます!



と、
野球部員のように
ハキハキと
挨拶をしてくれる
男の子(たぶん中学生くらい)




朝食を取りに行くと、

横にいた
70歳くらいの
年配の女性は
『昨日はよくねむれました?』
穏やかな笑顔で
声をかけてくれた




かと思えば、

何かにつけて
怒鳴りちらしている
おばあちゃんもいた

食事のホールで



『箸が転がったの!箸が!』


と、
怒っていた



看護師さんがすぐにかけより
話を聞いている

その間にも
おばあちゃんの
箸が転がった、
怒りは収まっていなかった




なんのこっちゃい、



訳のわからない
事が
多すぎて
頭が混乱する



でも、
そのおばあちゃんも
『普通』
の時もあり、

私が共同のトイレのスリッパを
(いつも、ぐちゃぐちゃ)
並べ直していると





アナタ、えらいわよね、
いつも見てたのよ

アタシなんて脚がわるいから
そのまま入っちゃう、

なんて茶目っ気のある
笑顔をみせてくれた




ある女の子は
普段ホールで談笑している
おばさんたちのアイドルで
学校だったら、
クラスの人気者女子という
雰囲気で
回りを笑わせていた


私がシンクで歯を磨いていたら、
近くに来てくれて

話をしてくれた



わたしは、
ここにもう6ヶ月いるんですよー!
リジンっていうのかなー、
普段、こんな感じなんですけど、
時々、
コンニチハ!
って、死にたくなっちゃう
私がでてくるんですー!笑



本人は楽しそうに
ケラケラ笑いながら話していた




入院中、
夜中に
水が欲しくて
ナース・ステーションに行くと、


真っ暗なホールの端で
彼女が椅子に寄りかかって
窓のそとを見ていた



JR総武線がみえる



その時の彼女の表情は
あの、
明るくて笑顔の可愛い
昼間とは
まるで別人

本人が笑って話していた

コンニチハ!って現れちゃう
死にたい私
なのだろう


声をかけることも
できなかった




あの明るい女の子が
こんなにも
空虚な顔になるのかと





なぜか、
『ショーシャンクの空に』


が、
思い出された



あの、
ガラスの壁一枚が

あちらの生活
こちらの生活

を隔てている



それは、
私や彼女のような
『精神障害』
をもつ者を

隔離しているのか
守っているのか

モーガン・フリーマンの
語りが聞こえてきそうだ