離婚届を渡される前の話


その日は日曜。

また夕方前になって、いきなり

「今から友達と会うから、出る」と夫。


「わかった」と送り出した。


私も気分転換に外に出ようかな。

カフェでゴハンでも食べようかな…と

夫が出かけたあと、そう思い立ち

自宅から一番近い繁華街に出かけることにした。


最寄り駅は何もなくて

スーパーくらいしかないので

カフェにいくために自宅から数駅の繁華街へ。


電車を降りて、改札を出る。


駅の構内を歩いてると…


な、なんと!!

柱の影に隠れるようにして誰かを待つ、

見覚えのある男の姿が!


お、夫だ!


向こうのほうが先に私に気づいたようで

「ゲェッ」という、苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらを見ている。

人生であそこまで苦々しく睨みつけられる事って

なかなかないので

向こうの視線には、すぐに気付いた。


「あれ?友達と待ち合わせ中だよね!?」

私もびっくりして声をかけると

「おい、なにしてんだよっ!」

明らかに狼狽している夫。

「私はカフェに行こうと思って来たんだよ。

そしたら、いきなりあなたが居たからびっくりした」

「は、はやくアッチ行けよ!!」

怪しいなー。

「友達来るんでしょ?挨拶するよ!爆笑

「お前なんて紹介できるわけないだろ!?

カフェに行くんだろ!?早くいけよっ!プンプン

慌ててる。

まるで小学生男子のようだ。


夫の慌てぶりに段々おもしろくなってきた私。

「なんで?お友達に挨拶するってば〜。挨拶させてよぉニヤリ

そう言うと、なんと夫は一目散に走り出したのだ!!


慌てて追いかける私。

「ちょっと!どうしたのよ?友達は、いいの?」

無言で走る夫。


走って最寄りの路線の改札口を入ると、

男性トイレに逃げ込んでいった。


私は男性トイレから少し離れたところで、出てくるのを待つ。

出入り口は一つしかないから、いずれ出てくるだろう。


ははーん。

男友達ならふつうに形式的にでも紹介できるよね。

男性トイレに逃げ込んで

「急用ができたからごめん」とかいって

女にラインか電話してるな…

そう思った。


ばったり出くわした、あのとき。

時間は18時25分だった。


たぶん

18時30分に女と、あの改札前で待ち合わせしていたんだ。

私の到着があと5分遅ければ、女と会ってる所を見れたかもしれないのに…。

それを写真に撮れていたら…。

夫が私に気づかなければ…。


今回は後を付けたわけじゃないけど

自分の運の悪さを悔やんだ。

いや、、でも。

実際にそれを見たらショックなのかな。

もしかしたら、現場を見なかったのは運が良かったのかな?

気持ちがぐるぐると回る。


「お前っ!!ストーカーみたいな真似しやがって!」

「なんなんだよ、気持ち悪い女だな!」

肩で息をして、感情的な夫がトイレから出てきた。

青ざめて汗だくで正気の沙汰ではない顔をしてた。

やっぱり怪しいな。

「はぁ?私はカフェに行こうとしただけだよ!

まさかこんな近所で待ち合わせしてるとは思わなかったよ」

それは紛れもない事実なんです。


近所で友達と待ち合わせすることもあるのかもしれない。

でも、友達を待ってる時に

妻にばったり会って

ここまで狼狽するのだろうか。


夫は諦めて自宅に帰るつもりなのか、

自宅方面の電車に乗りこんだ。


そんなに会おうとしていた人に会えなかったのが悔しかったのか

私に大事な人との時間を妨害されたと思ったのか

電車の中でも怒鳴られた。

周りの乗客、みんなが見ていた。


その日は家に帰ったけれど、

まあ。やっぱり。

予想はしていたけど。


それから2日後

「急な仕事で遅くなる。夕飯はいりません」

とラインがきて。

深夜まで帰ってこなかった。


そんなもんだよね、

結局、リスケになっただけ。



結婚する前

私もよくそこの駅の改札前で夫と待ち合わせをしていた。

「疲れてる」という夫を気遣い、

夫の家に近い場所まで会いに行っていたのだ。


夫は何事にたいしても、ルーティンが決まってると言うか…

びっくりするくらいワンパターンな人間だから、

いつも同じところでご飯を食べて、

いつも同じ安いラブホに行くというのが当たり前の流れだった。


ワンパターンな夫のことだから

おそらく私じゃない女とでも

私と行っていたレストランで食事をし

あのラブホに行くのだろうと踏んでいる。