第4詩集。97頁に26編を収める。
 

「ひとの悲しみの深さを/測ってはいけない」とはじまる作品「悲しみの深さ」は、余分な言葉を排してぎりぎりのところで詠っている作品である。さまざまな年齢の子を亡くした親がおり、それは、それぞれの悲しみであり、それは深さなどで測れるものではないのだ。
 

   それぞれの

   悲しみの底に

   ひとしく今日もまた

   雨が墜ちる


どの悲しみも測ることのできない深さをもっている。具体的な状況が詠われているわけではないが、今このときに世界の幾多の地で戦禍があることをふまえているのだろう。いくつもの死があり、それらは数でまとめては語れないそれぞれの意味を持っている。
 

「葬列」。男が歩道橋の上で夕陽を見ていると、見知らぬ女が茜雲の写真を撮りはじめる。このような叙景から、作品は男の心の深い処へ降りていく。
 

   橋のかたわらの街灯は

   男を照らし

   男の身から窶れた影を音もなく弾き出した

   慈悲なく責め立てる時間に逐われ

   男は抗いながらも走ってきたのだ

   立ち止まることなど思慮もせずに


男は眼下にながれていくヘッドライトの車の列を「とぎれることのない/うつくしい葬列のよう」だと思っている。男が置かれている具体的な状況などは一切説明されない。作品は、男が生きていく寂しさのようなものを取りだして伝えてきている。
 

詩集の最後に「上高地抄」として、4編のソネットが載っている。ここでも、作品は叙景から心の内なる景色へとグラデーションのように移ろっていた。静かな抒情詩といっていいだろう。その中の1編「石」の最終連を紹介しておく。
 

   けれど巡り来たこの夏

   石に向かって占いのようにわが旅の

   残された時間を決して訊ねたりはしない