『ハートフル・ドリーム』


子供の頃はよく逃げる夢を見た。

私は猛スピードで逃げて、

夢から目覚める。

そう言う夢だった。


三十六、七歳の時に、

精神科の閉鎖病棟で

逃げる夢を見たら、

私は初めて追う者に捕まり、

背後からギュッと抱き締められた。

少年が私の頭の後ろで呼吸を荒げ、

一心に私にしがみ付いて抱き締めていた。

私の鼓動は恐怖により

乱れに乱れていた。

身動きの出来ない抱擁の中で

私は徐々に落ち着きを取り戻してきた。

その少年の抱擁には

底深い優しさが感じられた。


追う者は幻聴でお馴染みの

元型の少年だった。

幻聴に表われる元型は

いつも私を虐めるが、

本当は私の事が好きなのだなと思った。