12億ユーロをかけて開発される人工脳
http://wired.jp/2013/02/08/human-brain-project/
「Human Brain Project」は、脳について利用可能なあらゆる情報を結集して、脳の動きをシミュレートするスーパーコンピューターを開発する。
脳科学版のCERNのようなものだ。「Human Brain Project(HBP)
」と名付けられたこのプロジェクトは、欧州委員会から、今後30カ月で5,400万ユーロ、10年間で総額約12億ユーロもの資金を獲得した。目的は、2020年までに人間の脳についてのあらゆる科学的知見をすべて1つのスーパーコンピューターに結集して、人間の脳という謎に包まれた機構の機能を、可能なかぎり忠実にシミュレートできるようにすることにある。
「Human Brain Projectは、脳がどのように機能するかを解明するという野心をもっています」と、このプロジェクトの87の参加機関のうち、イタリアにおけるパートナーのひとつであるフィレンツェ大学のヨーロッパ非線形分光法研究所(LENS:Laboratorio europeo di spettroscopia non-lineare)のフランチェスコ・サヴェリオ・パヴォーネは語る。
欧州委員会は、HBPと同時に、さまざまに応用できる材料グラフェンと同名のプロジェクト「Graphene」
を、総額20億ユーロの資金で推進することも選択した。
しかし、人間の脳の機能をシミュレートするスーパーコンピューターだけがプロジェクトの目的ではない。パヴォーネはこう語る。「HBPは、利用できるあらゆるデータを結集して、脳についての統一的なヴィジョンをつくりたいと考えています。脳機能イメージング、分子マーカー、行動に関するデータ、認知科学的分析など、分野はさまざまですが、彼らの分析の中心にある研究対象は同じです。これらが互いに対話することを可能にします」。
要するに、知を一カ所に集めることで、神経変性疾患やその他の神経系の障害を解明したり、新薬開発をするための出発点とするのだ。
また、脳のコネクションの総体、コネクトーム(connectome)の研究も行う。これに取り組むのがフィレンツェの研究チームだ。パヴォーネは続ける。「脳の中では構造と機能が密接に関連し合っています。今日わたしたちは、自閉症患者や統合失調症に苦しむ患者の脳のネットワークの構造が健常者の脳の構造とは異なることを知っていますが、そのことを考えれば理解できるでしょう。脳の細胞構築(cytoarchitecture)を研究することは、この器官をシミュレートして、このようなネットワークの障害を解明し、新しい薬学的なターゲットを定め、構造的な視点から症状と戦う助けとなります」。
これに関してLENSは、光断層撮影(optical tomography)の技術を用いて脳の完全な地図を再現するだろう(現在は動物のモデルを用いているが、将来は人間の脳にも取り組む)。これによって、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)より1,000倍も高い解像度の脳の画像を得ることができる。