記事「司法試験は“国語”の応用で解ける!」のコメント№2で予告した記事の始まりです(タイトルは、ロー卒さんによる同記事のコメント№9からアイデアをいただきました!)。
まず私は、特に司法論文(憲法)の答案を書く力を鍛える際には、
①原告等の主張(・相手方の反論)を最小限にとどめ、私見(≒裁判所的な公平中立な立場からの論述)を最大限に書いた答案を論文全過去問で制限時間内に安定的に書けるようになって初めて、
②最大限に書いた私見のうち原告等に有利な論述を、徐々に原告等の主張へと移していく
…という順序で進めていかないと、最大の配点がある私見が薄くなるか、私見が厚くても原告等の主張(・相手方の反論)と内容がかぶって、得点効率が悪くなると考えている。
※司法試験ではなく予備試験の論文(憲法)では、上記①②に限らず様々な方法があることを、『予備試験 4A論文過去問分析講義』の各年度の憲法についての講義や、『4A基礎講座』の4A論文解法パターン講義(憲法)でお話しています。
このことは、『司法試験 4A論文過去問分析講義』の各年度の公法系第1問(憲法)についての講義で何度も話しているのだが、合格者にすら伝わっていなかったりする。
その原因の一端が、『司法試験 4A論文過去問分析講義』の各年度の公法系第1問(憲法)で提供している講師(=私)作成答案例を上記①のスタイルで提供している点にあることは否めないだろう。同講義で②について何度も話していても、口頭で伝えた情報は物としては残らないから、書面情報である①講師作成答案例のイメージだけが残ってしまうとか(講義を聞いてくれていないならば、“自己責任”といわざるを得ないが)…。
“完全解”を目指した講師作成答案例を上記①のスタイルで提供している意図を一応説明しておくと、②最大限に書いた私見のうち原告等に有利な論述を、原告等の主張へとどのくらい移せるかは、個々人の時間管理能力や憲法の論文答案を書いた経験等によって変わるので、一義的な“完全解”を示しにくい点にある。つまり、『司法試験 4A論文過去問分析講義』の公法系第1問(憲法)の講師作成答案例は、受講生個々人で②をその個性・環境等に応じて徐々にやっていただくための①叩き台という意図で提供しているのだ。
ただ、受講生個々人で②をその個性・環境等に応じて徐々にやっていただくのが、ひょっとすると難しいのかな?…と思ったので、これを具体的にどのようにやっていくのか、一例を示してみようと思う。
今日は、その1stステップ。
以下は、『司法試験 4A論文過去問分析講義』で提供している、司法H28論文公法系第1問(憲法)の講師作成答案例の本文だ(本物はこれに、再現答案・採点実感・出題趣旨等の徹底分析に基づく合格要件か加点事由かの区別や、最高裁調査官解説等の文献のうち使える情報等についてのコメントを大量に付しています)。
この①叩き台の最大限に書いた私見=“第2 設問2”のうち、②A側に有利な論述だと自分で考えた部分に、何らかの“しるし”(ex.下線、「」、マーク)を付けてみてください(私がザッとやってみたところでは、50~60行分くらいありそうです)。
※H28司法論文公法系第1問(法務省で公開されているpdfファイル)をまだ解いたことがない方は、時間を計って答案構成(できれば答案書きまで)した上でね!(o^-')b
「その2」の記事で、私がやってみた“一例”を示す予定なので、それを見るまでに、ぜひ上記課題をやっておいてください。
大作のシリーズになりそうなので、そんなにすぐにはアップできないかもしれないけど…お楽しみに!(^O^)/
第1 設問1
性犯罪者継続監視法(以下単に「法」)は、Aの継続監視されない自由1を侵害し違憲である。
自由1は、「幸福追求~権」(憲法13条後段)として保障される。
第2 設問2
1 自由1は憲法上保障されるか。
人権のインフレ化防止のため、「幸福追求~権」として保障するのは、人格的生存に不可欠な利益に限定すべきである。
⑴ 本件で継続監視とは、監視対象者の体内に埋設されたGPSから送信される位置情報を警察が電子計算機を使用して継続的に取得し、これを電子地図上に表示させて監視対象者の現在地を把握することをいう(法2条1項)。
これを実施するため、警察署には、管轄区域の地図を表示する大型モニターが導入され、同モニターには、監視対象者の現在地が表示されるとともに、同人の前科等の参考情報が表示された。
⑵ これにより、まず監視対象者がトイレに行く・その滞在時間等の私生活の中でも秘匿性高い情報まで収集されかねない。
ア 確かに、誰もがその時々の位置情報を周囲の者に把握されているが、継続監視には電子計算機を使用するため、正確な情報を長期間にわたって保存できる。
また、監視対象者の前科等の参考情報まで併せて把握している周囲の者は多くないだろう。
イ ただ、継続監視は、監視対象者の前科等の参考情報をもともと把握している警察本部長等が行う(22条)だけである。
しかし、警察に位置情報を収集されることによる心理的圧迫は大きいといえるし、収集した位置情報の漏えいや目的外利用等を防ぐ管理体制も明らかでない。
ウ このような情報をコントロール(強制的に収集されないように)することは人格的生存に不可欠といえるから、自由1は「幸福追求~権」として保障される。
2 としても、「公共の福祉」に基づく最小限の制約に服する(13条後段)が、最小限の制約かどうかの審査基準が明らかでない。
⑴ 自由1は人格的生存に不可欠といえるほど重要である(前記⑴)。
また、継続監視により、監視対象者の立ち回り先によってはその主義・信仰・趣味・嗜好等が推知されるおそれがあるし、これを継続的に取得することで個人の行動パターンが知られてしまうから、行動の自由(22条1項)や表現・信仰活動(21条1項、20条1項)等を委縮させるおそれがある。
さらに法は、性犯罪者の再犯前に、制約をしている。
⑵ 他方、政党国家現象が進み国会野党対国会与党(≒内閣)という対立が激化している中で、超党派の「性犯罪被害の予防を促進するための議員連盟」が結成され、性犯罪者の再犯防止に関する具体的方策を講じるために必要な法整備についての検討が進められた翌年、「全国民を代表する選挙された」国会議員(43条1項)の提出法案として法が国会(41条)に提出され、衆参両議員で可決され成立した(59条1項)から、これを尊重する必要もある。
⑶ そこで、最も厳格な明白かつ現在の危険の基準よりは緩やかに、(a)相当の蓋然性で生ずる放置できない害悪防止のため(b)必要かつ合理的な手段による制約ならば、最小限と解する。
3⑴ 本件では、(a)20**年5月に連続して発生した①②事件により、性犯罪者の再犯防止に社会の関心が集まることとなった。
①②事件に関する報道では、心理学の専門家等が、「一定の類型の性犯罪者は、心理的、生理的、病理的要因等により同種の性犯罪を繰り返すおそれが大きく、処罰による特別予防効果に期待することは現実的でない。このような性犯罪者の再犯を防止するためには、出所後の行動監視が必要である。」旨の所見を述べた。
こうした経緯を受けて、前記2⑵の事情に至ったから、法の主目的は、「性犯罪の再犯の防止」(法1条)にあり、これを通じて「性犯罪者の社会復帰を促進するとともに、地域社会の安全の確保を推進する」ものと解すべきである。
ア ここで性犯罪の再犯被害は、①②事件とも再犯を重ねるにつれて被害が大きくなっていることからしても、「生命、自由」(13条後段)や肉体・精神的「健康」(25条1項)、特に子ども(①は前科も含め幼稚園児、②はPの前科で女子中学生が被害者)はその「教育」(26条)の見地からも放置できない害悪といえる。
イ そして、政府の統計によれば性犯罪の再犯率は他の犯罪類型に比べて特に高いものではないとしても、心理的、生理的、病理的要因等により特定の性的衝動に対する抑制が適正に機能しにくい者が存在することは確かで、そのような者が再び同様の性犯罪に及ぶリスクの高さは専門家が判定できるから、そのような者による性犯罪の再犯被害については、相当の蓋然性で生ずるといえる。
⑵ア (b)前記⑴の心理学の専門家等の所見から、主目的を達するには、監視対象者(法2条2項)の出所後の継続監視が必要とはいえる。
また、検察官が継続監視の申立てをしなければならないのは、刑法176~179・181条の「性犯罪」(法1条)で懲役の確定裁判を受けた者(その刑の執行猶予の言渡しをするものは除く)が、その心理・生理・病理的要因等により再び性犯罪を行うおそれが大きいと認めるとき(法10条1項)に限られている。
そして、裁判所が継続監視決定をしなければならないのは、上記申立て(必要な資料も提出:法10条2項)を受けて、必要な調査(11条1項)を基礎とし、被申立人の上記おそれが大きいと認めるとき(この点は上記検察官と二重にチェック)に限られる。
さらに、被申立人は、弁護士を付添人に選任でき(法12条1項)、これを選任しないときは、裁判所は職権で、弁護士である付添人を付さなければならない(同条2項)し、裁判所は、“審判”期日を開き、被申立人及び付添人から意見を聴かなければならない(法13条)から、公開法廷で国民に監視される(82条1項)「裁判」ではないが、被申立人の弁解・防御の機会は充分といえる。
その上、被申立人と付添人は、継続監視決定に対し、1週間以内に抗告できる(法15条)という不服申立手段もある。
(ア)a 確かに、監視対象者の現在地を把握するだけでは、そこでの具体的行動が分からないし、働きかけられない。
しかし、電子地図上に監視対象者の現在地と前科等の参考情報が表示されるから、監視対象者がその前科等に関連する場所に近づきそうなら事前に警戒できる。
それで監視対象者が性犯罪(の準備行為)をしている疑いある場合には警察官が現場に急行できる態勢が整えられることが想定されていたから、性犯罪の再犯を防止できる。
b また、監視対象者が特定危険区域(法23条1項)ないし一般的危険区域(法3条)に近づいた時に初めて、GPSからその位置情報を送信すれば足りるとも思えるが、それでは性的衝動による性犯罪の再犯防止には間に合わないこともあろうし、同区域から離れた場所での性犯罪につながる不審な行動やその準備行為等を把握できない。
c さらに、前記2⑴の委縮により、監視対象者は「社会復帰」(法1条)の機会を奪われかねないが、同目的は、性犯罪の再犯防止という主目的達成を通じて副次的に達成すべきものにすぎない。
(イ) しかし、多忙な警察本部長等自身の継続監視(法22条)が、前記(ア)aのような形で充分できるとは考えにくいから、適切な担当者に任せるべきである。
また、継続監視決定の基礎となる「必要な」調査(法11条1項)で、専門家による鑑定等は、「必要があると認めるとき」に命じる「ことができる」し命じないこともできる(同条2項)という任意的なものにとどまる。
さらに、20年(法14条)は懲役刑の原則的な最長期間であること(刑法12条1項)からも長すぎるとみうるし、定期的に法14条要件を裁判所ないし専門家等が判定し、みたさなくなったときに、途中でも監視を打ち切るための規定がない。
他方、20年を経過しても同要件をみたす状況が変わらない場合に、継続監視期間を延長するための規定もない。
(ウ) とするとこれらの点で、継続監視は必要かつ合理的な手段とはいえないから、最小限の制約ではなく違憲である。
イ 次に監視対象者は、継続監視開始10日前までに医師によるGPSを体内に埋設する手術を受けなければならず(法21条1項)、継続監視期間終了までGPSを除去・破壊してはならない(同条2項)。
法案作成過程では、監視対象者に小型のブレスレット型GPSの装着を義務づける案も検討されたが、「外部から認識可能な装置を装着させると監視対象者に対する社会的差別を引き起こしかねない」との懸念が強く示されたため、最終的に、超小型のGPSについて上記手術をすることになった。
この手術を受けても、いかなる健康・生活上の不利益も生じず、手術痕も外部から認識できない程度に治癒し、継続監視の期間終了後にGPSを取り外す際も同様との医学的知見が得られている。
そうすると、10日間ほどの余裕を持たなければ、上記のように治癒しないだろうし、監視対象者の身体・健康やGPSに不具合が生じた場合も、継続監視開始日までに対応できないだろう。
(ア) 監視対象者に小型GPSの所持を義務付ける等の手段では、GPSがどこかに放置される可能性を否定できず、主目的を達成できないし、医療的な措置にも限界があるのだろう。
また、法21条1・2項違反に1年以下の懲役又は100万円以下の罰金という必ずしも軽くない罰則(法31条1・2号)があるが、前記手術を嫌がる者に対する法21条1・2項の実効性確保に(2項については監視対象者の身体・生命の安全のためにも)必要とはいえる。
(イ) しかし、そのような者の自己決定権を尊重する(13条)見地から、「社会的差別」を甘受しても、同手術より、小型のブレスレット型GPS等の「外部から認識可能な装置を装着」する方法を選択する余地を認めるべきである。
(ウ) とするとこの点で、法21条は必要かつ合理的な手段とはいえず、最小限の制約ではないから、違憲である。
ウ 都道府県知事は、当該都道府県内の幼児保育施設・学校(の周辺道路)と公園・山林(の周辺道路)のうち、性犯罪が発生する危険性が一般的に高いと認める区域を一般的危険区域として指定しなければならない(法3条)。
そして警察本部長等は、監視対象者が同区域に立ち入った際の行動等の事情により、その者が性犯罪を行う危険性があると認めるときは、同区域のうち特定の区域を特定危険区域として指定し、その者に対し、1年以下の期間を定めて、同区域に立ち入ってはならない旨を警告でき(法23条1項)、その内容日時等を公安委員会に報告しなければならない(同条2項)。
これを受けた公安委員会は、監視対象者が上記警告を受けてなお同区域に立ち入った場合、同区域内で性犯罪を行う危険性が高いと認めるときは、その者に対し、1年以下の期間を定めて、同区域への立入禁止を命令でき(法24条1項)、その違反に対し前記イ(ア)と同じ罰則がある。
(ア) まず、一般的危険区域として指定されうる区域はかなり広いが、①②事件の犯行現場を含んでおり、一般的にも性犯罪が生じやすいといえるし、子どもは特に保護すべきだ(前記⑴イ)ともいえるから、この範囲内で、その者が性犯罪を行う危険性があると認めるときに限り特定危険区域を指定して警告・立入禁止命令をするのは、必要かつ合理的といえる。
(イ) また、このような段階的な規制は、広範囲の立入禁止命令をいきなり下されるよりは合理的といえる。
さらに、監視対象者が特定危険区域を指定されて警告・立入禁止命令を受けるのは広い一般的危険区域に立ち入った際の「行動」等を根拠とするし、段階的規制だからこそ後の段階の警告・禁止命令さらには罰則を意識させることになり、その者の「行動」に委縮効果を及ぼす。
しかしこれこそが、性的衝動による性犯罪の再犯防止に、継続監視に基づく警官の急行では間に合わない事態を防ぐのに必要と考えられる。
(ウ) よって、この点は必要かつ合理的な手段といえるから、最小限の制約であり合憲である。
以 上