記事『反復学習の本質~「インターリーブ」その1』に続き、『脳が認める勉強法』(原題『How We Learn』Benedict Carey[著]・花塚恵[訳]:ダイヤモンド社)
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脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!
1,944円
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の内容を、司法試験系をはじめとする試験対策に適用・応用していく記事です。
(以下、ページ番号と引用は上記書籍から。)
「その1」の最後で次回予告したとおり、「過去に出た問題は二度と出ないから、過去問を解いても無駄だ」という言説が全くの誤りであることを、「インターリーブ」法の観点から説明したい。
そのために、上記書籍で紹介されている実験を2つ、引用しよう。
実験①
「ロバート・カーとバーナード・ブースは…近所のスポーツジムが12週間にわたって開く土曜午前の運動コースに登録した8歳の子ども36人を被験者とし、2グループに分けた。そして、両チームにお手玉を的に向かって投げさせながら、競技の説明をした…子どもたちは、ゴルフボール大のお手玉を持って膝立ちになり、床に描いてある的を狙って投げた。ただし、投げるときはアイマスクを装着させた。目が見えない状態で投げ、投げ終えたらアイマスクをとってお手玉の位置を確認し、それから改めて投げてもらった。」(P230~231)
「1回目の挑戦は両グループとも好成績に終わり、スキルに明らかな差は見られなかった。」(P231)
「その後、子どもたちに練習をさせた。練習は6回で、1回につき投げるお手玉の数は24。グループAには1メートル先に的を用意し、それに向かって投げる練習をさせた。グループBには的を2種類用意し、60センチ離れた的と120センチ離れた的のどちらかを狙って投げる練習をさせた。それ以外の条件はすべて同じだった。」(P231)
「12週目を迎えたとき、最終実技テストが実施された。ただし、テストの内容は、1メートル先の的に投げるというものだった。これでは不公平ではないか。一方のグループは1メートル先の的を狙って投げる練習をずっとしてきたのに、もう一方はまったくしていない。前者のほうが明らかに有利だ。ところが、結果は意外なものだった。テストと同じ距離で練習したという事実は、最終実技テストではほとんどメリットにならなかったのだ。」(P231)
「いったい何が起きたのか?カーとブースは同じ実験を12歳の子どもにも実施した。結果が同じになるか確認するためだ。結果は同じだったが、それだけではない。12歳ではグループ間の差がさらに顕著に現れた。」(P231)
「カーとブースは報告した。『変化を取りいれた練習が、運動スキーマ(一つのまとまりとしての動きの記憶)の初期形成を促進すると思われる』と」(P231)
「変化を取りいれた練習のほうが、一つのことを集中して行うよりも効果的だということだ。なぜそうなるかというと、動きを調節する基本を身につけざるをえなくなり、どんな位置の的にも適応できるようになるからだ。」(P231)
実験②
「ルイジアナ州立大学の研究者が若い女性30人を対象に、バドミントンのサーブ3種類をどれだけうまく打てるようになるかを実験した」(P235)ときも、「ランダムに練習したCグループの圧勝だった。彼らは平均18ポイント獲得したのに対し、次に続いたBグループ(3種類を順に練習したグループ)は平均14ポイントだった。一度に1種類しか練習しなかったAグループは最下位で、平均12ポイントだった。練習していた3週間のあいだ、もっとも技術の向上が見られたにもかかわらずだ…ところが、いざ最終テストになると、彼らはぼろぼろになった。」(P237)
「グッドとマギルは…『一つのことを繰り返し練習させないようにすれば、人は絶えず調整せざるをえなくなる。それにより、変化全般に対応する器用さが身につき、ひいては個々の技術に磨きがかかる』との結論を下した。」(P237)
さて、ここまで読んで、どう思った?
…“過去問をくり返し解くのは、「一つのことを集中して行う」ことや、「一つのことを繰り返し練習」することだから、効果的ではないのか…知識のINPUTとかもした方がいいのだな!”というふうに思った方の誤解を解きたい。
確かに、①本番と“同一”の行為をくり返すことや、②ある“同一”の行為ごとにくり返すことは、最も効果的なものではなかった。
しかし、いずれの実験でも、①お手玉を投げる行為、②バドミントンのサーブをする行為はくり返している。①お手玉を投げる行為は、的までの距離を本番とは異なる2種類にしたものが、②バドミントンのサーブをする行為は、その3種類を練習する順序をランダムにしたものが、最も効果的だった。
このように、(a)本番と“同種”の行為をくり返す中で、(b)その行為の“同種”性を崩さない程度の変化を織り交ぜるのが、最も効果的な練習だという捉え方が適切だと思う。
これを、司法試験系に適用してみよう。
まず、司法試験系の論文・短答過去問に全く“同一”形式・内容のものは1問たりとて存在しない。とすると、これから皆さんが受ける本試験問題も、過去問と全く“同一”ではなく、(a)過去問をくり返し解くことこそ、本番と“同種”の行為をくり返すことになる(INPUTが本試験=OUTPUTと“同種”の行為とはいえないことは明らかだよね。予備校模試・答練等は、本試験と“同種”といえるものなら効果的だが…)。
また、司法試験系の論文・短答過去問は、同じ分野の問題でも、その形式・内容を微妙に変えながら出題されているので、(b)過去問を解くことが、その行為の“同種”性を崩さない程度の変化を織り交ぜることになるといえるだろう。
これらは、あらゆる法的問題に通用する処理手順たる“4A”を使っていれば、なおさらである。
というわけで、「過去に出た問題は二度と出ないから、過去問を解いても無駄だ」という言説は、全くの誤りである。
むしろ「過去に出た問題は二度と出ないから」こそ、これをくり返し解くことが、最も効果的な対策となるのである。
最後に、次回予告。
「インターリーブ」法を使うと、知識の記憶や上記のような行為・スキルの熟達だけでなく、芸術的な感性といった感覚的な領域(おそらく“リーガルマインド”も含む)まで、効果的に鍛えられる。
これを後日、記事『反復学習の本質~「インターリーブ」その3』で紹介しよう。