記事『H28短答本試験実況分析講義』で、H28予備・司法短答本試験問題のうち、解答プロセスを記事にしてほしい問題を募集したところ、何問かリクエストをいただきました。
その中で、H28予備短答商法第22問が、本記事のタイトルのとおり、短答本試験における現場思考法(短答過去問知識の応用)をお伝えするには最適かと思いました。
そこで、まず問題文をコピペするのでこれを2分以内にご自分なりに解いた上で、その先の解答プロセス(『H28短答本試験実況分析講義』で本問についてお話している内容のダイジェスト版です)をご覧ください。
問題文(←pdf直リンク:p11上部に本問があります。)
監査役会と監査等委員会に関する次の1から5までの各記述のうち,誤っているものはどれか。 なお,各記述に係る株式会社の定款には,別段の定めがないものとする。(解答欄は,[№23])
1.各監査役及び各監査等委員は,いずれも,その権限として自ら会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
2.監査役会は常勤の監査役を選定する必要があるが,監査等委員会は常勤の監査等委員を選定する必要がない。
3.監査役の任期は選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであるが,監査等委員である取締役の任期は選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までである。
4.取締役と会社との利益相反取引によって会社に損害が生じた場合であっても,当該取締役(監査等委員であるものを除く。)が事前に当該利益相反取引につき監査等委員会の承認を受けたときは,当該取締役がその任務を怠ったものとは推定されない。
5.監査役会及び監査等委員会は,いずれも,株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容を決定する権限を有する。
解答プロセス
(1)リード文読み
①冒頭にあるテーマ“監査役会と監査等委員会”を把握する。
②正しいものではなく“誤っているもの”を選ぶことを自分に意識づけるため、“誤”の字に〇をつける。
③“なお~”には、このような美しくない形で書き足さなければならないほどの重要情報がある可能性が高いので、必ずチェックする(※本問では、疑義問だというツッコミをなくすための情報にすぎず、結果的に受験生が問題を解く上では無視してよいが)。
(2)各記述
短い記述から読んで・解いていく。
∵全記述を読まず・解かずに正解できる問題が多いので、短い記述から読んだ・解いた方が、長い記述まで読む・解く時間と労力を節約できる。
①最短の記述2を読む・解く。
ア 前段(監査役会)については、予備短答過去問(H27-22-ア)から〇と判断すべき。
イ 後段(監査等委員会)については、司法短答過去問(プレ-52-オ)「委員会等設置会社(※現在は“指名委員会等設置会社”)の監査委員は,全員を非常勤とすることも許される。」(=○)を“監査等委員会…の監査等委員”に応用して、“○?”(=どちらかというと正しいっぽい)としておく。
②次に短い記述1を読む・解く。
ア 監査役については、司法短答過去問(H20-43-オ)から〇と判断すべき。
イ 監査等委員については、司法短答過去問
(H20-45-ウ)「監査委員は,だれでも,監査委員会の職務を執行するため必要があるときは,当該委員会設置会社の子会社に対して事業の報告を求め,又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。」(=×)
(H22-44-オ)「監査役はその職務を行うため必要があるときは,また,監査委員会が選定する監査委員は監査委員会の職務を執行するため必要があるときは,いずれも,子会社に対して事業の報告を求めることができる。」(=○)
を、“各監査等委員は…その権限として自ら会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。”に応用して、“×?”(=どちらかというと誤っているっぽい)としておく。
※監査役は独任制(個人プレー)、監査(等)委員はチームプレーという本質的知識(4A条解講義(商法)でももちろん説明しています)を短答過去問等で使いこなせるようにしておけば、正答可能性が高まっただろう。
③次に短い記述5を読む・解く。
ア 監査役会については、司法短答過去問(H21-44-イ)「監査役が2人以上ある場合には,監査役は,いつでも,監査役の全員の同意により,会計監査人を解任することができる。」(=「いつでも」が×で、それ以外は〇)を、“監査役会”の“会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないこと”に応用して、“○?”とできるかどうか…単に“?”でもやむなし。
イ 監査等委員会についても、上記アをさらに“監査等委員会”にも応用して、“○?”とできるかどうか…単に“?”でもやむなし。
※監査役(会)や監査(等)委員会は、会計監査人等の監査系の機関の“元締め”的な機関であるという本質的知識(4A条解講義(商法)でももちろん説明しています)を短答過去問等で使いこなせるようにしておけば、正答可能性が高まっただろう。
④次に短い記述3を読む・解く。
ア 前段(監査役)については、司法短答過去問(H19-44-オ)から〇と判断すべき。
イ 後段(監査等委員)については、
(ア)監査等委員=取締役(399条の2第2項)という知識(4A条解講義(商法)ではもちろん説明しています)があるなら、取締役の任期についての司法短答過去問(H20-41-ウ)から〇と判断すべき。
(イ)上記(ア)の知識がなくても、監査等委員という制度は複雑でよく分からんものといったイメージを持っていれば、一般株主もそのようなイメージを持っているだろうから、何をやっているかよく分からん監査等委員の信任を頻繁に問う必要があると考えうる。
→監査役より任期は短いだろう(+細かい年数の正誤まで問われている可能性は低い)から、“○?”としておく。
⑤最後に、最も長い記述4を読む・解く。
“監査等委員会の承認を受けた”以上、“監査”の専門家からお墨付きをもらったようなものだから、“当該取締役がその任務を怠ったものとは推定されない”というのは“○?”と推測しうる。
⑥以上から、
1.×?
2.○?
3.○?
4.○?
5.(○)?
となったので、これらのうち×の可能性が最も高いのは1=正解。
さらに分析
上記の解答プロセスを辿るのに最小限必要だったのは、
(新)司法・予備短答過去問知識
+①②③その知識を“監査…委員”等の類似性(キーワードリンク)から応用する能力
+④監査等委員=取締役(399条の2第2項)という知識or監査等委員という制度は複雑でよく分からんものといったイメージからの想像力
+⑤“監査”という日本語の意味から推測する能力
+⑥記述間で比較をする手法
となる。
かなり様々な知識・能力等が必要なので、正解できなくても合格できる“難問”の部類に入るといえる。
ちなみに、『H28短答本試験実況分析講義』に付属するレジュメ(憲民刑88ページ、下4法47ページ、一般教養41ページ)では、本問をいきなり1or5の2択に持ち込む解法テクニックも紹介しています。