Ⅰ 本問法律は、子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者で請求者の居住する市町村内に住むものの、氏名、住所、顔写真を開示されない自由を制約している。
1.ここで、かかる自由が憲法上保障されていればこの法律の合憲性が問題となるが、かかる自由を保障する明文はない。
(1)しかし14条以下で保障されている各種の人権は、歴史的に国家権力から侵害されることが多く、憲法制定当時に保障する必要が認識されたために保障されたものである。
 とすると、その後の社会の変化に伴って憲法上保障する必要が出てきた権利を、新しい人権として保障することを憲法は否定するものではないと解すべきである。
 根拠条文としては、14条以下の人権カタログに対する一般規定的な性格を持つと解される、13条の「生命、自由、及び幸福追求」の権利に位置づけるべきである。(?)
(2)ただ、必要が出てきたというだけであらゆる権利を憲法上保障してしまうと、既存の他の人権との摩擦・衝突が激化し、人権全体の保障が低減してしまうおそれがある。
(3)そこで「個人として尊重される」(13条前段)、すなわち人格的生存に不可欠な利益に限って憲法上保障されると解すべきである。
2.本問で個人の氏名、住所、顔写真が請求者に開示されてしまうと、その者は常に他人の目を気にして生きていかなければならなくなり、プライバシーや社会生活の自由が大きく損なわれ、個人の人格的生存に不可欠な社会交渉が非常に困難となる。また「すべて国民は」個人として尊重される(13条前段)以上、性犯罪者の人格も保護すべきである。(?)
3.よって、前記自由は人格的生存に不可欠な利益として憲法上保障されている。
Ⅱ とはいえ、かかる自由も絶対無制約ではない。本問法律による制約が、他の人権・憲法上の価値との調整原理たる「公共の福祉」(13条後段)の範囲内のものであれば許される。
1.そこで、制約が「公共の福祉」の範囲内にあるかの判断基準が問題となる。
(1)本問で氏名等の情報が請求者に知れるとその記憶を消すことは事実上不可能であり、その請求者から多くの人に情報が知れ渡る可能性もあるので、前記自由が一旦侵害されると回復困難で重大な損害を被りかねない。
(2)しかし他方、前記自由は個人の人格的生存という個人的価値を保障するにとどまり、表現の自由(21条1項)の自己統治の価値のような社会的価値の保障までは含まない。
(3)よって、厳格性の若干緩和された判断基準を用いるべきである。具体的には、①重要な目的と②実質的関連性のある③合理的な手段による制約であれば、「公共の福祉」の範囲内にあると解すべきである。
2.(1)まず本問法律の目的は、近くに住む常習的な子供に対する性犯罪者から子供の安全を守りたい、という親権者の自然な希望に応えることにあると考えられる。子供の安全を守るという利益は、親権者が「保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」(26条2項前段)こと、「家族」を尊重していること(24条2項)、家庭生活の基盤となる「住居」の不可侵(35条1項)を規定していることから、憲法上当然の前提となっていると解される。
 よって、①は満たされる。
(2)しかし、その手段として性犯罪者の氏名等の情報を開示するというのは、前述のように個人の人格的生存に不可欠な社会交渉を非常に困難にさせ、その更正を否定して社会的に抹殺するようなものである。このようなことは、前述の重要な目的を達成する手段としても到底合理的とは思われない。よって、③は満たされない。
(3)むしろ性犯罪者を監視したり、病的な性向を持つ者はそれを治療したりする方が、目的達成のために直接的であり、②実質的な関連性があるというべきである。
3.したがって本問法律による制約は「公共の福祉」の範囲内にはなく、違憲である。
                                           以上