Ⅰ A社に対して
1.CがA社に対し手形金の支払を請求するには、A社が有効に手形上の債務・責任を負担している必要がある。
2.(1)ここで、本問約束手形の外見上は甲がA社を代表して手形を振り出したように見えるが、甲は必要な取締役会決議を経ずにA社代表取締役に就任している(商法261条1項)にすぎないので、その代表権はない。
よって、甲の手形債務負担行為の効果はA社に帰属しないのが原則である。
(2)しかし“代表取締役”という「会社ヲ代表スル権限ヲ有スルモノト認ムベキ名称ヲ附シタ」「取締役」甲の手形行為であるから、Cが甲に代表権がないことにつき善意・無重過失の場合は、A社は例外的に手形上の責任を負う。(商法262条)これは取引の安全を図るため、代表権に対する相手方の信頼を保護する表見責任であり、重過失は悪意と同視できるからである。
(3)なおCはBを介して手形を取得しているが、直接の相手方でなくても手形上の記載から代表権を信頼することはありうるし、条文上も直接の相手方に限定するようには読めないので、Cも「第三者」にあたりうると解する。
3.したがってCは、甲にA社代表権がないことにつき善意・無重過失の場合は、A社に対し手形金の支払請求ができる。特に手形上の権利移転過程に瑕疵も見当たらないし、A社の抗弁も考えられないからである。
Ⅱ 甲に対して
1.甲は本問約束手形を代表方式で振り出しているが、代表権がないので無権代表者としての責任を負う。(手形法77条2項、8条1文)
2.(1)この責任は手形取得者を保護して手形取引安全を図るためのものなので、手形取得者は前記表見責任と選択的に追及できると解すべきである。
(2)但し、代表権がないことにつき手形取得者が悪意・重過失の場合はこれを保護する必要はなく、無権代表者の責任を追及できないと解する。
3.したがってCは、甲にA社代表権がないことにつき悪意・重過失でない限り、甲に対し手形金の支払請求ができる。
Ⅲ Bに対して
1.CがBに対し手形金支払請求をするには、①Bが有効に手形上の債務・責任を負担していること②Cが遡求条件(77条1項4号、43・44条)を具備することが必要である。
2.まず、Bは本問約束手形に裏書しているから裏書人としての担保責任を負いそうである(77条1項1号、15条1項)が、前者たるA社が原則として手形上の債務・責任を負わないことから、これから手形を譲り受けたBの責任に何らかの影響があるのではないかが一応問題とはなる。
しかし、各手形行為は手形面上の記載を自己の債務・責任の内容として取り込むものである(文言性)から、その手形面上の記載自体に瑕疵がなければ、手形取得者が悪意だろうと善意だろうと、それぞれ別個独立に成立するのは当然である。(手形行為独立の原則、7条参照)
本問でも手形面上の記載自体に瑕疵があるとの事情は見当たらないから、Bはやはり裏書人としての担保責任を負い、①を満たす。
3.したがってCは、②を満たした場合に、Bに対し手形金の支払請求ができる。
以上
1.CがA社に対し手形金の支払を請求するには、A社が有効に手形上の債務・責任を負担している必要がある。
2.(1)ここで、本問約束手形の外見上は甲がA社を代表して手形を振り出したように見えるが、甲は必要な取締役会決議を経ずにA社代表取締役に就任している(商法261条1項)にすぎないので、その代表権はない。
よって、甲の手形債務負担行為の効果はA社に帰属しないのが原則である。
(2)しかし“代表取締役”という「会社ヲ代表スル権限ヲ有スルモノト認ムベキ名称ヲ附シタ」「取締役」甲の手形行為であるから、Cが甲に代表権がないことにつき善意・無重過失の場合は、A社は例外的に手形上の責任を負う。(商法262条)これは取引の安全を図るため、代表権に対する相手方の信頼を保護する表見責任であり、重過失は悪意と同視できるからである。
(3)なおCはBを介して手形を取得しているが、直接の相手方でなくても手形上の記載から代表権を信頼することはありうるし、条文上も直接の相手方に限定するようには読めないので、Cも「第三者」にあたりうると解する。
3.したがってCは、甲にA社代表権がないことにつき善意・無重過失の場合は、A社に対し手形金の支払請求ができる。特に手形上の権利移転過程に瑕疵も見当たらないし、A社の抗弁も考えられないからである。
Ⅱ 甲に対して
1.甲は本問約束手形を代表方式で振り出しているが、代表権がないので無権代表者としての責任を負う。(手形法77条2項、8条1文)
2.(1)この責任は手形取得者を保護して手形取引安全を図るためのものなので、手形取得者は前記表見責任と選択的に追及できると解すべきである。
(2)但し、代表権がないことにつき手形取得者が悪意・重過失の場合はこれを保護する必要はなく、無権代表者の責任を追及できないと解する。
3.したがってCは、甲にA社代表権がないことにつき悪意・重過失でない限り、甲に対し手形金の支払請求ができる。
Ⅲ Bに対して
1.CがBに対し手形金支払請求をするには、①Bが有効に手形上の債務・責任を負担していること②Cが遡求条件(77条1項4号、43・44条)を具備することが必要である。
2.まず、Bは本問約束手形に裏書しているから裏書人としての担保責任を負いそうである(77条1項1号、15条1項)が、前者たるA社が原則として手形上の債務・責任を負わないことから、これから手形を譲り受けたBの責任に何らかの影響があるのではないかが一応問題とはなる。
しかし、各手形行為は手形面上の記載を自己の債務・責任の内容として取り込むものである(文言性)から、その手形面上の記載自体に瑕疵がなければ、手形取得者が悪意だろうと善意だろうと、それぞれ別個独立に成立するのは当然である。(手形行為独立の原則、7条参照)
本問でも手形面上の記載自体に瑕疵があるとの事情は見当たらないから、Bはやはり裏書人としての担保責任を負い、①を満たす。
3.したがってCは、②を満たした場合に、Bに対し手形金の支払請求ができる。
以上