Ⅰ 問1
 1.捜索差押をするには、原則として令状が必要である。(218条1項) 
これは、捜索差押がプライバシー権・財産権などの人権制約の大きい強制処分(197条1項但書)であり、その必要性等について事前に公平中立な第三者機関たる裁判所の審査を受けるべきだからである。
   しかし例外的に、逮捕に伴う捜索差押(220条1項2号)の要件を満たせば、無令状で行える。(3項)
 2.そこで本問では、被疑者への逮捕状呈示(201条)ない本問捜索差押が、「逮捕の現場」でのものと言えるかが問題となる。
 (1)そもそも、被疑者への逮捕状の呈示が要求された趣旨は、被疑者に対し受忍範囲を示し、その不服申立の機会を確保しようとした点にある。
とすると、そのためには、原則として逮捕状執行前に被疑者に呈示する必要がある。
 (2)ア.ただ220条の場合、逮捕状自体には捜索・差押の範囲の明示がないと考えられることから、別途の考慮が必要である。
そもそも220条1項の趣旨は、逮捕者等の身体の安全確保・罪証隠滅防止のため令状を請求している余裕がない場合の緊急処分として、例外的に無令状の強制処分を許容した点にある。
    とすると、逮捕者等の身体の安全確保・罪証隠滅防止のため緊急性が高い場合には、逮捕状を被疑者に呈示しなくてもよい場合がある、と解すべきである。
   イ.とはいえ、かかる場合ならば呈示しなくても何でも捜索差押ができるとすると、人権制約が過大となるおそれがある。
    そこで、公平中立な第三者機関たる裁判官による事前審査を受けた逮捕状記載の犯罪に関連する範囲で、被疑者への呈示と同視しうる代替措置がとられた場合に限るべきである。
ウ.以上から、①逮捕者等の身体の安全確保・罪証隠滅防止のため②緊急性が高い場合に、③被疑者への呈示と同視しうる代替措置がとられ、④逮捕状記載の犯罪に関連する範囲でなされた捜索差押ならば、被疑者に対し逮捕状を呈示してなくても「逮捕の現場」での捜索差押と言えると考える。
(3)ア.本問では、甲のナイフを用いた強盗という被疑事実による逮捕状に基づく捜索差押であるから、甲宅内の捜索と、甲の居室内にあったナイフの差押は④を満たす。
イ.また、ナイフを用いた強盗犯の逮捕は危険性が高いから、逮捕者等の身体の安全を確保する必要がある。
     さらに、甲と同居している妻が罪証隠滅するおそれがあるから、これを防ぐ緊急性は高い。
     よって、①②を満たす。
   ウ.そして、妻は甲と同居しているから、甲の居室内のプライバシー権等につき、一定の処分権限があると考えられる。
     また、同居している妻は、甲の居室内の捜索差押を監視して甲に報告できるから、甲の不服申立の機会も実質的に確保されていると言える。
   よって、③も満たす。
3.したがって本問捜索差押は、「逮捕の現場」での捜索差押として適法である。
Ⅱ 問2
1.本問でも、「逮捕の現場」での差押ができるかが問題となる。
2.小問1の規範にあてはめる。
(1)まず、覚せい剤は容易に罪証隠滅されるおそれがあるので、それを防止する緊急性が高い。よって、①②を満たす。
(2)また、被疑者への逮捕状の呈示はなされているので、③は問題とならない。
(3)しかし覚せい剤は、強盗罪という逮捕状記載の犯罪に関連しないので、④を満たさない。
3.よって、「逮捕の現場」での差押はできない。
4.とすると、このままでは押収できないが、看守者を置いて現場保存(222条1項・118条)し、新たに令状請求した上で押収すればよい。
                                     以上