先代の和菓子屋
血の為せる業・プロローグ
順調な滑り出しを見せた「なな瀬」も、それを支えていたのは大分から出て来た先代の母親と、元々大阪に住む弟の手伝いという「安価な労働力の提供」によるものであり、狭い団地の一室を仮住まいとする共同生活は当然いつまでも続くものではありません。
やがて先代の母は帰郷し、弟は残った。当然ここから正当な「労使関係」が成立することになります。
商品展開の工夫と出店できる店舗の増加やグレードアップにより、売上は右肩上がりでしたが、売り子や職人も雇うようになると更なる人件費が利益を圧迫するようになりました。
一家の経済状態はやや低下し、朝早く外出し夜遅くに帰宅する両親の生活に、愚息の生活はペースを失い、休日は同行や手伝いを強いられることで、「受験勉強」はほぼ不可能になりました。
間もなく経済的な理由により、中学受験のリタイアを父親から宣告されました。
「高校受験で公立トップ校を目指せばいい」と、意外にそれはあっけないもの。
この時愚息は何を思ったのか、記憶が今でも混乱しているとのこと。いや、考える力を失っていたのかも知れません。
取引先の勧めもあり、やがて父親と弟がそれぞれ別行動で2店舗展開するようになったことで、いよいよ事業が本格化するように見えました。
確かに売上は単純に倍になり、利益率は上がらなくとも利益は目に見えて増えました。
そしてその「利益」と「マンネリ化」が、弟の心の中の撃鉄(トリガー)を引いたようです。
それこそが「血の為せる業」。
一家が底無し沼に叩き落とされるまで、たいして時間はかかりませんでした。