2010年の夏、散歩の途中で立ち寄った古書店の書棚に「アトランティス全8巻」のうちの、1巻から5巻までの5冊が並んでいるのを見つけた。
「ああ、これネットで作者が一部を公開してたよな…、でも購入するほどではないか」と思って、その時はそのまま店を出た。
別の行き先の予定があったため、5冊もの分厚い本を持って歩く気がしなかったからだ。
それから一週間ほどの間、どういうわけか本のことが頭を離れず、何か運命的なものすら感じていたので、次に行った時には必ず購入して帰ろうと決めていた。
七日ほどののち、ふたたび店を訪ねたら、その本たちは同じ場所の書棚で私を待っていてくれた。
何か妙にうれしかったのを今でも鮮明に覚えている。
作者のウェブページには、そのころまで第1巻の一部が掲載されており、そのすべてを読了していた。
続きが読みたかったが、本はすでに絶版となったあとで、叶わぬ願望となっていた。
そんな渇望状態の中で思わず見つけた古書であったが、実際にそのものを手に入れたいという思いは湧き上がってこず、次の機会にしようという腹を据えた態度には自分自身ちょっと意外だった。
なぜか一週間後にも必ず残っているから、その時に買って帰ればよいとの確信があった。
人生にはところどころ竹の節のような部分があって、自分がそこにさしかかっているのがわかるものだ。
その時にあまり人間心を出し過ぎて現世的な損得の判断をしてしまうと、進むべきことも進まず、成るべきことも成らなくなりがちだ。
ここ一番の関所にさしかかったら何よりも心を落ち着け、早急な判断は遠ざけて「場の精霊」に委ねる度胸が必要だ。
人事を尽くして天命を待つ…。
自分で為すべきことと天に委ねることとを思い切って二分してしまうと、心の整理がつくと同時に気持ちが爽やかになり穏やかに過ごせる。
私は五冊の本の入った重い袋をぶら下げて、片道九千歩の道を嬉々として帰ってきた。
続く