今週も丑三つ時更新しかもやや遅くなってしまってすみませんの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。しかも思ったより長くなってしまって前後編になって更にすみません。今回も先週に引き続きゲームチックなクエスト。今回の話のダーマ神殿の企画イベントはもちろん捏造で、祭りのモデルは毎年今からちょっと前の時期に恒例の、走る速さで決まる関西地方のあのお祭りです。イザヤール様、武闘家なら足の速さで福男になれそう(笑)後編は今夜お届け予定です、お楽しみに?

 ダーマ神殿は、階段の段数が半端なく多いことで有名である。平和ボケの為か、この階段に不満を漏らしながら訪れる転職希望者も多い。
「元来転職とは、その後の人生を左右する重要かつ神聖なるもの。塔に行かずとも済むようになっただけでも簡略甚だしいのに、そのような不満が出るとは。情けない」
 ダーマ神殿大神官は嘆いた。嘆いてまた塔に隠られてしまってはかなわないので、部下の神官たちは、かつての苦行を思い起こさせるイベントを開催して、日頃の転職が如何にお手軽であるかをアピールしようと考えた。そこで、古代に行われたと言われる祭礼を参考に、とある行事を行うことにした。
 そのイベントの噂は、もちろんリッカの宿屋にも届いた。冒険者たちは、そのイベントに参加しようと大はりきりで、ルイーダの酒場での話題はもっぱらそのイベントについてのことに集中した。
「ミミ、イザヤールさん、あなたたちも出るの?ダーマ神殿のイベント」
 ルイーダが、雪山修行から数日ぶりに帰ってきたミミとイザヤールにその話題を振った。
「ダーマ神殿のイベント?」
 二人が首を傾げると、ああ、とルイーダは気付いて説明した。
「ごめんごめん、あなたたちはちょっと留守にしていて、酒場の噂を聞いていなかったわね。もうすぐダーマ神殿で、ちょっと面白そうなイベントが開催されるそうなの。名前はなんだったかしら・・・そうそう、『ラッキーボーイ&ラッキーガール祭り』とか言ってたかな」
「どんなお祭りなの?」ミミは尋ねた。
「かつての転職の儀式と、古代に行われていた今年一番のラッキーな人を決める儀式を融合したものらしいわ。決められた日時にスタートして、アユルダーマ島を巡ってアイテムを集めて、ダーマ神殿の大神官の居るところに一番乗りでゴールした人が、今年一番のラッキーボーイ&ラッキーガールに選ばれるんだそうよ。賞品が高レベルの宝の地図だから、みんなはりきってるってわけ。詳しい内容はダーマ神殿で聞いてみたら?」
「へえ、確かに面白そうかも♪男女ペアで参加なの?」
「そうみたい。必ずしもカップルでなくていいみたいだけど、男女ペアなら、優勝者が男女どちらかにばかり偏らないからって」
「行ってみるか、ミミ」
「はい、イザヤール様」
 ミミとイザヤールは、クエスト「奇跡男&幸運の女神決定戦!」にチャレンジすることにした!

 二人はルーラですぐにアユルダーマ島に向かい、ダーマ神殿の長い階段を上りながら、ミミとイザヤールはイベントの内容についてあれこれ推測した。
「オリエンテーリングみたいだな」
「でもラッキーボーイ&ラッキーガールってことは、幸運も関係あるのかな?」
「酒場の冒険者の間では、別名『奇跡男&幸運の女神選び』とも言ってたようだな」イザヤールは言って、それから笑って続けた。「命拾いをした私は、さしづめ本当の奇跡男だな。しかも最高の幸運の女神付きの、な」
 さらりと言われてミミは頬を染めたが、イザヤールと再び出逢えた自分は、本当に幸運だとしみじみ思って、はにかみながらも自分の腕を彼の腕に絡め、彼を見上げて微笑んだ。
 階段のてっぺんに着いてみると、ダーマ神殿は既にイベント待ちの冒険者でいっぱいだった。企画したらしい神官をつかまえて詳しい内容説明を聞いてみると、イベント開催当日に詳しいルール説明をするとのことだった。
「スタートは神殿階段ふもとからです。印を付けたアユルダーマ島産のアイテムを集めてもらってから、ダーマの塔の儀式の間でスタンプを押して、神殿のてっぺんの大神官様のところにたどり着いてダーマ神の祝福を受けたペアが今年のラッキーボーイ&ラッキーガールに選ばれます」
 いよいよオリエンテーリング色が濃厚である。神殿内で度々会う、スカリオやガルシアなどのミミの知り合いも、女性の冒険者と組んで参加するつもりらしい。神殿の見張り兵も、イベントがあることで退屈を免れると喜んでいた。
「できればフォース友のキミと組みたかったけどね。残念だけど、もうコンビを組んでいるなら仕方ないなあ」スカリオは言って、さらさらした髪をかきあげ、ビーバーハットの角度を直し、それからミミに手を差し出した。「フォース友でも、手加減しないよ。フェアに行こうね」
 イザヤールは、スカリオのミミへの握手が長すぎるとちょっと眉をひそめながら、フォース友っていったい何だ、と呟いていた。
 一旦出直し、いよいよ大会当日。ダーマ神殿の階段ふもと、つまり湖に渡された橋の上は参加冒険者でいっぱいだった。ルール説明係の神官は、声がよく届くように階段を十段ほど上って、そこで説明を始めた。
「本日は『ラッキーボーイ&ラッキーガール祭り』にご参加ありがとうございます。このイベントに参加して、古き時代の転職の困難さに思いを馳せて頂ければ幸いです。
ここからスタートして、まずはアユルダーマ島の特産品の『ようがんのカケラ』『まりょくの土』『てっこうせき』を集めて頂きます。ただし!ただのてっこうせきその他や、元々手持ちの物はダメです。我々が用意した、スライムタワーの刻印が刻んである物を集めてください。それを全て揃えただけでも、かなりの幸運の持ち主ということになります。
それからダーマの塔の最上階に上って頂き、儀式の間に置いてあるスタンプを指定の用紙に押して、そして神殿のてっぺんまで戻ってきて大神官からダーマ神の祝福を受けたペアが、見事今年のラッキーボーイ&ラッキーガールに選ばれます。そのペアには副賞として、宝の地図が授与されます。
もちろん、自分の足で移動すること!乗り物を使ったり、アイテムの偽物を用意したりしたら失格です。如何にペアでうまく協力できるかがカギになりますから、頑張ってくださいね」
 説明も終わり、スタート間近になって、少しでも前に出ようと冒険者たちはひしめいた。ミミたちは、そんなとき人混みの中に居るとかえってスピードが遅れることを知っていたので、わざと後方に控えた。
 素早さと補助呪文を考えて、イザヤールは武闘家、ミミは魔法使いで今日は参加することにした。アユルダーマ島の魔物ならば、HPの回復は「めいそう」で充分間に合うし、万が一に備えてアイテムも用意してある。
 合図と共にいっせいにスタートして、いよいよイベントが始まった!

 大部分の者が、比較的神殿から近い、ようがんのカケラの落ちている西側に向かった。あとの二つのまりょくの土やてっこうせきの場所と塔の位置関係を考えると、確かにそこから行った方が効率はいい。また、ペアで二手に別れて別々の場所に向かって後で三ヶ所目で落ち合おうとする者も若干居た。
「私たちはどうしましょう?」
「おまえには、何か考えがあるのだろう。それも、私とほぼ同じことを」
「はい、たぶん」
「二手に別れるが、片方は競争率の激しいようがんのカケラに専念し、もう片方はまだあまり競争率が高くないまりょくの土とてっこうせき両方を取りに行き、互いにルーラないしキメラの翼でダーマ神殿前で落ち合い、塔に向かう。そうだな?」
「ご名答です。さすがイザヤール様☆」
「そして私は武闘家だから、万が一の小競り合いに備えて、ようがんのカケラの方を担当しよう。いいな?」
「はい。申し訳ないですがお願いします。魔法使いでは小競り合いで勝ちにくいし、イベントで呪文で攻撃もちょっと・・・。でもくれぐれもお気を付けて」
 瞳を潤ませミミはイザヤールをぎゅっと抱きしめ、それから彼にピオリムをかけた。イザヤールもミミを抱きしめ返して幸運を願うキスを彼女の額に落とし、それから二人はそれぞれの方向に駆け出した。
 まりょくの土の落ちている位置は、ダーマ神殿からほぼ道なりに南で、とても移動しやすい。ミミは苦もなく採取場所にたどり着き、スライムタワーの絵の印が刻んであるものを探した。足が早くてミミと同じ頃に着いた数人も、目を皿にしてスライムタワー印を探す。
 間もなくミミは可愛いスライムタワーが彫りこんである容器入りまりょくの土を見つけ、やがて周辺あちこちからも見つけた歓声が上がりだした。どうやら神官たちは、スラタワー印をたくさん用意しているらしい。こうなると、最後の神殿の階段が勝負になるかもしれない。
 ミミはそのまま、そこからやや北東にまっすぐのてっこうせき採取所に走った。年中常夏アユルダーマ島では、魔法使い女子の装備魔女セットはとても快適でしかも走りやすい。そして魔法使いもそこそこ素早さが高い。こうして彼女は程なく目的地に着いた。
 つるはしを使う前に、ミミは目をこらして最近掘ってまた埋めたらしい場所を探した。しかし、巧みにならしてあるのか、それらしい場所が見つからない。そのうえ、この辺りに棲息する魔物、ドロヌーバが複数襲いかかってきた!
 本当は風属性の呪文が有効だが、ミミの攻撃魔力は高かったので、イオ系魔法で撃退できた。水気が抜けて固まって立ち尽くしているドロヌーバを見て、ミミは思わず呟いた。
「ドロヌーバを焼くと・・・はにわナイトになったりして・・・?」
 そんなわけないだろ、と言いたげにドロヌーバの固まった泥がひとかけ、ぽろりと落ちた。その落ちた部分が、鈍い赤色に光っている。鉄鉱石のようだ。近寄ってみると、スライムタワーが彫りこんであった。ミミはスラタワー印のてっこうせきを手に入れた!まさに稀に見る幸運である。
 と、そこへ、すぐ近くでつるはしを振るっていた女戦士が、目を光らせて近寄ってきた。
「悪いけど、それはあたしが頂くよ!魔法使いの腕力じゃ戦士に勝てない、痛い目に遭いたくないだろ!」
 ミミはこくりと頷いて答えた。
「うん、痛いの大嫌い。だから・・・ルーラ!」
 女戦士は、ミミの去った跡を呆然と見つめるしかなかった。

 一方イザヤールは、元々武闘家を極めていたのとピオリムの効果で、最後尾付近からたちまち先頭集団に加わって、ようがんのカケラの採取所にたどり着いた。棍を構えると、なぎはらいの要領で辺りの熔岩を宙に上げ、手袋をはめた手でいくつも素早く受け止めた。ようがんのカケラは熱いので通常の印では溶けるか燃えるかするから、何か特殊な加工がしてある筈と彼は考えた。だから、違和感を感じるようがんのカケラに注意を払えばいい。
 案の定、熱に強い陶器のかけらにスライムタワーを描いたものをくっつけたようがんのカケラを間もなく見つけ、イザヤールは唇の端に笑みを浮かべて頷いた。そこへ、それを狙う一団が、次々に飛びかかってきた。
 イザヤールは、彼のようがんのカケラを狙って次々伸ばされる手をかわし、腕力に訴える者には当て身をして返り討ちにし、キメラの翼を使う隙を窺った。だが、そうこうしているうちにただでさえ人数が多い場所にますます人が増え、間合いを取るのも困難になってきた。
 そこで彼は、棍を地面に突き立て、それによじ登って押し合う人の塊から抜け出た。そして、絶妙なバランス感覚でその上で片手倒立をし、空いた方の手でキメラの翼を放り投げた!
 まさかの行動に、その場に居た誰もが対処できず、一同はしぶしぶ再びようがんのカケラ探しに戻った。
 彼が神殿前でしばらく待っていると、やがてミミもやってきた。
「お待たせしました、イザヤール様」
「いや、二ヶ所はたいへんだったろう。怪我はないか?」
「はい、イザヤール様こそ」
「大丈夫だ」
「よかった。ではさっそく、ダーマの塔に向かいましょう」
「ああ」
 二人は顔を見合わせて微笑み、再び走り出した。〈後編に続く〉