*********
「奥様、ご苦労様です」
仕事が終わると、いつもこうして迎えに来てくれるリョータ君。
この日もリョータ君は、車に乗り込もうとする私に向かって丁寧に頭を下げる。
いくらボディーガードといえ、これはあまりにやり過ぎかも?
いつもそんな疑問が私の中にあった。
「いいよリョータ君。そんな風に気を遣わなくっても」
「でも、社長の奥様ですし・・・」
「本当にいいの。私は全然構わないから!」
私の申し出に、リョータ君は少し困った表情を浮かべた。本当に気なんか遣わないでほしい。
偽物の私なんかに・・・。
だって怜さんと私は本当の夫婦なんかじゃない。
リョータ君はそのことを知らないけど、私は「奥様」の一言で、いつもかなり心にダメージを受けている。
自分勝手なのは承知の上だけど、そのことで苦しんでいることも確かで・・・。
相反する思いが、ひどく私を混乱させるばかり───