なんだかんだで終業時間になった。


チカちゃんと佐久間さんは、この時間になっても、まだ私の話題で盛り上がっている。


この話題は当分の間続きそうだな。


ため息をつきながら、これ以上巻き込まれるのが嫌で、私は真っ先に退社することにした。


「ごめん、お先にね」


「お疲れ様でした~!!」


私に返ってくる二人の声が見事にハモっていた。


心なしか二人の顔が笑って見えるのは、私の気のせいではなさそうだ。


まったく~、私の気も知らないで~~!!


と、思わず叫びたくなる衝動をどうにか押さえながら、複雑な思いを抱えたまま、私は足早に階段を駆け下りた。


玄関の自動ドアが開くと同時に、オレンジ色の夕陽が私の顔に差し込んできた。


ふと見上げると、空はすっかり夕暮れ時。


オレンジに染まる空の下を、私は家路へと急いだ。


すると突然、


「アヤ姫!!」


と、誰かに呼び止められた。


声のする方へ振り向くと、停まった車の窓から、オレンジ色の光を浴びた怜さんが顔を出し、手を振っていた。


「アヤ姫、お疲れ~!!」


怜さんはそう言うと、素早く車のドアを開け、その姿を現した。


黒のスーツ姿が、夕焼けに映えてたまらなくかっこいい。


私は思わず、怜さんの姿に見惚れてしまっていた。


あっ、でも、どうしてここに怜さんが?


私が驚いて立ち尽くしていると、怜さんはすっと助手席のドアをあけ、「どうぞお乗りください」と微笑んだ。


怜さんに言われるままに恐る恐る私が車に乗り込むと、怜さんは運転席にどかっと腰を下ろした。


ドアがバタンと閉ると同時に、車は何事もなかったように夕陽に向かって静かに走り出した。


*********


「アヤ姫、これ」


運転中の怜さんが、小さな紙袋を私に差し出してきた。


「何ですか?」


袋を受けとりながら私が尋ねると、


「見てごらん!」


と、怜さんが微笑みながら答えた。


言われた通り袋を見ると、そこには携帯ショップのロゴマークが。


どうやら袋の中身は携帯電話のようだ。


「携帯がないと困るよね。俺もアヤ姫と連絡取れないと困るから」


ハンドルを握ったまま嬉しそうに笑っている怜さんの横顔をチラッと見ながら、ドキドキする私。


でも、不思議と嬉しさは半減していた。


だって、怜さんの呼び方がまた「アヤ姫」に戻っていたから。


なぜ?


私は無意識に深いため息をついていたようだ。


「ねえ、今日会社どうだった?」


心配そうに怜さんが尋ねてきた。


けど、その横顔はどこか笑っているようにも見える。


何故笑っているのかは、私にだってわかっているけど。


あーあ、なんか複雑・・・・・。


私の中に、また妙な感情が湧き上がってきた。


なのに隣の怜さんは、私と違ってなんだか嬉しそう。


だからかな、そのことが余計私をイラつかせた。


私がこんなに悩んでいるっていうのに!!!


「結婚の事、すっかりばれてましたけど!!」


思わず声を荒げ、吐き捨てるようにセリフを投げつけると、私はプイッと運転席とは反対側を向いた。


元はと言えば怜さんがみんなにバラしたりするから・・・・。


けど、そのまた元を辿れば、私のせいだったりするんだけど。


そんな思いを抱えながら、横目で怜さんの顔をちらっと見た。