そんな私の様子を見て、怜さんは顔を曇らせた。
「大丈夫?怖かっただろ。でももう安心して。こんな思いは二度と俺がさせないから」
怜さんの眼差しが痛いほど真剣だった。
そんな瞳に見つめられたら、信じるより他にない。
私はコクンと頷いた。
けど正直ほっとする。
怜さんの温かくて力強い瞳。
その瞳に見つめられただけで、私の胸はぎゅっと締め付けられる。
それはまるで、怜さんに愛されているかのように錯覚してしまうほどだ。
でも私は直ぐにその思いを胸の奥にしまい込んだ。
だってそれは、私の錯覚でしかないのだから──
怜さんの顔が見れなくて、私は思わず壁に目を逸らした。
すると私の視界に壁にかけられた時計が入ってきた。
えっ?うそーーー!!!!
「あっ!!話の途中ですみません!私今からバイトに行かないと!!」
本気でバイトの事を忘れていた私。
時計の針は、すっかりバイトの時間をオーバーしている。
しまったー!大遅刻だよー!!
大慌てで布団を剥ぎ取り、ベッドから起き上がろうとする私を、怜さんは驚いた顔で見つめた。
「えっバイト?ひょっとしてそれ、借金返すためとか?」
早口で尋ねる怜さん。
「・・・・はい。だって会社のお給料だけじゃ全然足りなくて・・・」
即答しながら私がベッドの横に足を下ろそうとした時だった。
「ちょ、ちょっとアヤ姫!?」
突然怜さんに腕を掴まれ、動きを止められた私。
思わず振り向くと、そこには顔を曇らせ困惑気味の怜さんの顔があった。
「ふぅ~」
大きくため息をつくと眉間にしわを寄せ、怜さんは何かを考え始めた。
私は成す術もなく腕を掴まれたままの状態でベッドに座っていた。
***
暫くして怜さんは、何かを思いついたように私の方を見た。
「すぐにバイトは辞めること。いいね。アヤ姫はそんな無茶なこと、考えなくていいから」
口調は物静かではあったが、目つきはかなり厳しかった。
まるで私に有無を言わせないかのように。
「えっーそんなこと言われたって・・・。だってそんなことしてたら一生かかってもお金は返せませんよ」
「いいんだそれでも。だって俺は・・・・」
急に怜さんが口ごもり始めた。
私は不思議に思いながら怜さんを見つめ返していた。
すると怜さんは口ごもりながらも続けた。
「本当に気にしなくていいんだ。アヤ姫に酷いことをしたのは俺の方だ。だから・・・」
怜さんがそう言った途端ベッドがギシギシきしみ、大きく揺れた。
私の目の前で、急に怜さんが背中を丸め、頭を抱え込んだからだ。
「怜さん?」
驚きつつも私は声をかけた。
しかし私の呼びかけに返事はなく、怜さんの寝室に私の声だけが虚しく響いた。
押し黙ったままの怜さん。
時計の音だけが無情に響く。