「だけど我慢ならないのよ。紫苑が私じゃなくあんたを選ぶだなんて。なんであんたみたいな女と結婚するなんて言うのよ」




えっ、結婚??




怜さん、この女に結婚の事話ちゃったの?




怜さんは結婚することを秘密にしよう言っていた筈。




予想外の展開に、私は思わず顔を上げた。




目の前では、女が前髪をかきあげながら煙草をぷかぷかとふかしていた。




そして私の横には、顔をニヤニヤさせた男が、膝をカタカタ揺らしながら座っていた。




詳しいことは分からないが、どこかで私と怜さんの結婚の話を知り、それが女の逆鱗に触れたようだ。




ただの女の醜い嫉妬。




それだけなら話も分かる。




けど、私の自由を奪い、このような場所まで連れて来た以上、話が済んだから、じゃあサヨウナラ、なんて都合のいい展開には考えられそうにない。




愛する男を奪った女が目の前にいる。




そして女が次にとる行動は?




あまりの恐怖に、私の身体は震えあがった。




「ふふっ、まあいいわ。さっそく本題に入りましょうか?」




女はそう言うと、灰皿に煙草を押し当てた。




薄暗い部屋には、女の吐いた煙がまだフワフワと浮かんでいた。




そんな中、女がすっと立ち上がった勢いで、煙が大きく乱れた。




女は間違いなく私の方へゆっくりと顔を近づけた。




先ほどまでの表情とは違い、その顔はやけにニヤついている。




なに、なんなの?




私は顔を歪めながら、女の顔を見つめ返した。




「あんたすごいテクニシャンなんだって?ふふふっ。隣にいるケンちゃんにもたっぷり教えてやってよ」




そう言うと女は、隣の男にウインクした。




──テクニシャン──




その言葉を聞いて、私はあることを思い出していた。




そうよ、あのいたずら電話はこの女が仕組んだことだったんだ。




女はいたずら電話に困った私が、携帯ショップに行くことをあらかじめ計算していた。




そこでショップに私が来たらすぐに連絡が取れるよう、事前に店員を買収していたのかもしれない。




金持ちのお嬢様の思い付きそうな卑劣なやり方だ。




けど今は、それが解明したところで何の役にも立たたないことを私は十分知っていた。




今まさに私の身に危険が迫っている。




そのことを知りながらどうにもできない自分がいた。