男はウインカーを点滅させ、車が合流できるタイミングを待っていた。
「ちょっと何処へ連れて行くつもりですか?降ろしてください」
私のセリフに女はキッと私を睨みつけ、
「いいから、黙って乗ってなさいよ!」
煙草の煙を吐き出しながら女が乱暴に言った。
「一体何なんですかあなたたち!?」
私の問いかけに、ようやく観念したように女がこう答えた。
「そうねぇ、私のことは『紫苑』の関係者とでも言えば分かってもらえるのかしら?」
紫苑・・・・?
なぜ怜さんの名前が!?
女の口から「紫苑」の名前が出たことで、ますます私は困惑していた。
考え込む私の耳に、突然チカちゃんの叫び声が聞こえた。
私はすぐに声のする方へ顔を向けた。
するとそこには、切羽詰まった顔をしたチカちゃんが思いっきり車の窓を叩く姿があった。
彼女は偶然ここを通り、私が車に押し込まれる姿を目撃したのだろう。
異様な光景に、慌てて車に駆け寄って来てくれたに違いない。
「チカちゃん!!」
そんな彼女に助けを求めようと、私も声の限りに叫んだ。
すると私の傍で女は、煙草の煙を吐き出しながら焦ったように言った。
「まずいわ、早く出しなさいよ!!」
「あーい」
女の命令に対し男はだるそうに返事をすると、アクセルを踏み込みハンドルをきった。
チカちゃんの健闘も虚しく、車は勢いよく走り出してしまった。
後ろを振り向くと、チカちゃんの無念極まりない顔がどんどん遠ざかっていく。
もう逃げることは出来そうにない。
私はこのままどうなってしまうのだろう。
私の中に広がっていく不安と悲壮感。
あまりの恐怖に私の口はカラカラに乾ききっていた。