車に無理やり押し込められそうになりながら、ふとある思いが頭に浮かんだ。
このまま事件に巻き込まれて命を落とすことになったとする。
そうしたら、私の僅かな保険金が、夫である怜さんのものになる。
ってことは、ささやかではあるが恩返しができる。
「きゃぁぁーーー!!」
私が一瞬気を許したせいで、必死にドアを押さえていた手が剥がされ、車の中に勢いよく押し込まれてしまった。
ドスンと後部座席にうつ伏せに倒れた私の耳に、非情にもドアがバタンと閉まった音が聞こえた。
パッと顔を上げ、閉ざされたドアを見つめる。
けど女が私を押さえつけているため、動くこともできない。
「何で・・・?どうして?」
ポツリと呟く。
すると女は、声高らかにこう言った。
「いい?変な気だけは起こさないことね」
呆然とする私を女は睨みつけると、バッグの中からおもむろに手錠を取り出し私の腕にはめた。
「ちょ、ちょっと・・・」
自由の効かなくなった手を必死に動かしてみても、ガチャガチャと手錠の音が鳴るだけ。
「無駄な抵抗よ。絶対に外れっこないわ」
女は勝ち誇ったかのように声を上げ笑った。
「もういいわ、車を出してちょうだい」
女は運転席の若い男にそう指示した。
その男の風貌と言えば、普通のサラリーマンや好青年とは程遠く、どちらかというといけ好かない感じがした。
その男、女の指示を受け、「あーい」と間の抜けた返事し車を発進させた。
車が走り出すと、女はバッグから煙草を取り出し、一仕事終えたかのように煙草をくわえると、優越感に浸りながら煙を吐き出した。
私はそんな女を横目で睨みつけることしかできなかった。
「なによ?」
私の視線に気づいたのか、女は嫌な顔をして私にさっと背を向けた。
なんで私はこんな目にあってるの?
この女の目的は何?
この女の正体は・・・?
でもこの女、以前どこかで見たような・・・。
女の背中を見つめながら、私は記憶をたどり始めていた。