「条件は結婚ですがあくまでも形だけです。アヤ姫が大金だと思われたと同様、俺にとっても大金に違いないんです。それをあまり面識のないあなたにお貸しする訳ですが、それが戻ってくる保証はどこにもない。つまり、たとえ誓約書を交わしたところで、俺の不安が解消されるわけではない、そうでしょ?」


「それはそうですけど・・・。でも本当にお返しします。会社が立ち直ればすぐにでも・・・・」


「会社?」


「はい。実はお金をお借りしたのは父の・・・・」


「ちょっと待って下さい!私はアヤ姫、あなたにお金を貸すんです。だから返済義務はあなたにあるんじゃないですか?」


不思議な感覚だった。


物凄く常識とかけ離れた話をしているはずなのに、紫苑さんの柔らかいしゃべり方、丁寧な口調が、私の耳にスーッと溶け込んでくる。


だからかな、先程までオーバーヒート気味だった私の頭が、だんだんと冷静さを取り戻しつつあった。


だからよ!!


だからよけいに紫苑さんが随分と無理難題を言っているのが、私の耳についた。


それって、自分の借金は自分で返せって言ってるのと同じよね。


でも考えても見てよ、こんな普通のOLに、こんな大金返せる筈ないじゃない。


確かに紫苑さんに貸してって頼んだのは私だけど、紫苑さんほどの人がこんな簡単なことも分かんないの?


私は大きく目を見開きながら、紫苑さんを軽く睨みつけた。


「ふふっ、また興奮されるといけませんので、もう少しご説明しましょう」


紫苑さんは私の顔をちらっと見ると、軽く微笑んだ。


それはまるで私の僅かな変化も見逃しませんよ!と言った風に。


だから私が恥ずかしくなるのも当然で。


顔から火が出るんじゃないかと思うくらい、私の顔は赤くなっていた。


あーあ、紫苑さんにはまるで敵わないな。


私は肩をすぼめ、「はぁぁぁ」と、小さくため息を吐いた。


こうなったら、紫苑さんの説明、とくと拝見するとしようじゃない!


私はぎゅっと手を握りしめ、目の前の紫苑さんを見つめた。



* * *


「いいですか、この条件はアヤ姫を逃げられないようにするための逃亡防止策なんです」


「逃亡防止策!?」


「はい、そうです」


「えっでも・・・・。私逃げたりなんかしません。神に誓っても」


身を乗り出して抗議する私に、紫苑さんは人差し指を自身の口にそっとあて、静かにするよう私を諭した。