戸志呂さんが、事務所のドアノブをまわし、開けたドアの先には、紫苑さんの姿が見える。
よかった~、紫苑さんが待っていてくれて。
ホッと胸を撫で下ろす私に、
「ようこそ、ラビリンスへ!なんてね」
と、紫苑さんは冗談交じりに微笑んだ。
これから二千万もの大金を貸す人のすることなのだろうか?
紫苑さんの失態ともとれる行動に、釈然としない私。
紫苑さんの態度に若干の違和感を感じながら、来客用のソファーに座る。
向い合せに座る紫苑さんからは、アルコールの香りが。
どうやら仕事終りの紫苑さんは酔っているようだ。
そのせいかどうかは分からないが、悩ましげな視線を私に投げかけてくる。
そんな風に見つめられると、思わず目を逸らさずにはいられない。
私の知っている紫苑さんじゃない気がして、心拍数が上昇してくる。
まあ、知ってるといってもほんの僅かだけだけど。
紫苑さんの新たな一面に、戸惑いを隠せない。
「ねえアヤ姫、なんで俺なの?」
そんな中、突然飛び込んできた紫苑さんからの質問。
思わず私は目が点になった。
「えっ、何がですか?」
決してぼんやりして質問を聞いていなかった訳ではないが、ドキドキ真っ最中の私は、逆に質問を重ねることしかできなくて。
そんな私に対し、
「なんだぁ?こんな事も分からないの?」
と、紫苑さんが言う筈なんてなくて。
あくまでも優しく丁寧に相手の心を逆撫ですることなんて絶対にしなくて、どこまでも紳士的に受け答えをしてくれる紫苑さん。
「お金借りる相手に、どうして俺を選んだかって意味だよ」
そうちゃんと分かり易く説明をしてくれる。
──って、そんな質問されたって困るよ。
私は顔がどんどん赤くなっていくのが分かるほど、体中が火照り始めていた。