「わかりました。アヤ姫は何か事情がおありのようですね。私はこれから勤務に入りますから、よかったら事務所で待っててもらえませんか?」

・・・・・そうよね。

こんな時間だもの、お店始まっちゃうよね。

「はい。よろしくお願いします」

今度は手短に返事をする私。

無駄な時間を紫苑さんに付き合わせてしまったことを、後悔していた。

「では、店の前に戸志呂(としろ)という男を待たせておきますから、その男を尋ねてください」

「本当にありがとうございます」

電話を切った後も、しばらく足の震えが止まらなかった。

電話を持っていた手は、緊張のあまり感覚を失ったままだ。

何はともあれ、紫苑さんが会ってくれるということで電話は終わった。

紫苑さんの合意を得たことで、少し肩の荷が下り、ホッとしていた。

しかし、あまりにも簡単に紫苑さんがオッケーしてくれたことで、逆に気に掛かったり?

ひょっとして、からかわれているとか?

何かの冗談だったり?

それに会って話を聞いてくれたところで、紫苑さんがお金を貸してくれるという保証はどこにもない。

ブンブンと首を横に振る。

大丈夫!!

今は紫苑さんを信じる!!

心に強く念じながら、私は迷いを吹き飛ばした。

気持ちを立て直し、真っ直ぐ前を見据えた。

極限まで追い込まれれば、人は恐怖など無くなるのか?

死ぬことを思えば、これ位簡単なこと!

恥も外聞も捨て、私は「ラビリンス」へと向かった。