「公平君?私よ、理沙子。わかる?」
恐る恐る公平君の耳元で呼びかけてみる。
「オヤジ、ほら会いたかったんだろ」
「ねえ、公平君。久しぶりだね」
やはり公平君は、ピクリとも動かない。
彼の顔を見ながら、私は一人、遠い思い出
へと気持ちが切変わろうとした、その時だ
った。
「ガラッ」突然、病室のドアが開き、看護
師さんが入って来た。
「あら、潤君。今帰りなの?」
そう言いながら、ちらっと私の方を見る。
しかし彼女は私のことには触ることなく、
公平君に取り付けられているモニターをチ
ェックする。
「いつもお世話になります」
「今日もお父さん変わりなしだったわ。でも
希望を捨てないでがんばりましょうね」
私たちに向かって、明るくそう言った。二人
の会話を聞きながら、私はそっと公平君を
見る。彼はずっと黙ったまま、目を閉じてい
る。
「もうそろそろ消灯時間だから」
そう言うと、看護士さんはすぐに病室を出
て行った。
