「ただいま」


「お帰り。随分久しぶりだこと」


母親が奥から顔を出した。私が帰るのを知って


いた風でたいして驚いた様子はなかった。


「お母さん知ってたの?」


「そりゃ、お隣に恭平君いるんだよ。あの子が


全部教えてくれるわよ。翔子が帰ってくることも


ね」


「そっかー」


「翔子が帰ったってことは直人君も帰ったんだね」


「うん、今夜は一家団欒ってとこじゃない?」


私はそう言いながら、父のいる仏壇に手を合わせた


「ただいま、お父さん。ごめんね、なかなか帰って


来れなくて」


「ねえ、しばらくはゆっくりできるんでしょ。いろ


いろ話したいこともあるし・・・」


母親がいきなりこう切り出してきたので、私は少し


身構えた。


「お母さん、言っときますけど、私結婚なんてまだ


しませんからね。何言っても無駄だから」


「なにを言い出すのかと思ったら…。それを言うな


ら結婚しないんじゃなくて、結婚できないんじゃな


いの?」


母はそう言って笑っていた。確かにその通りだ。私は


返す言葉がなかった。



久々に実家で過ごす夜。やっぱり落ち着くなー。二人


でこうしてご飯を食べるのもいつ以来だろう。久しぶ


りの母の味はとても懐かしく、私の気持ちをほんわか


と温めてくれた。


「どうなの、そっちは。仕事順調にいってんの?」


母が心配そうに聞いてきた。なので私は、新製品に


関わる仕事を任せられたこと、ジュニアこと次期社


長が私の部下だったことなど、最近会った出来事を


母に聞かせた。すると母は、初めて聞く娘の活躍ぶ


りに驚いた様子で、目をパチパチさせながら、嬉し


そうに聞いていた。


「へぇー、次期社長がねぇー。それはすごいわね。


まあ翔子もがんばってるのね、お母さん見直したわ」


母はそう言って顔をほころばせながら、父の仏壇を


見た。しかし、喜ばしい反面、それが婚期を遅らせ


る原因になると淋し気持ちもあったようだ。私は、


そんな母の気持ちなどお構いなしに、夜が更ける


まで語り明かした。



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