この頃やたら寒くなってきた。外に出るのが
とにかくつらい。特に朝ベッドからなかなか
出られない。つい、温かい布団の誘惑に負け
てしまいそうになる毎日だった。
私たちがお互いの気持ちを告白してから月日
が流れたが、なにもそれ以上進展することな
く普段と変わりない生活を送っていた。
「ねえ、翔子さん。今日寒いしシチューなん
てどう?」
「いいわね。じゃあ、今夜はシチューに決定
ね」
いつもと変わらない会話。直人君が来た時と
何一つ変わっていない。会話だけではない。
直人君はあの告白から今日まで、私に触れる
ことは決してなかった。このことが私を一層
不安にさせていた。気持ちを確かめ合い、あ
んなに幸せだったというのに、今はまた新た
な不安が私の中に生まれてきている。好きだ
という気持ちだけでは物足りなくなっている
のだ。
人間は欲張りな生き物かも。特に私は。そん
な自分を戒めながら、やはり心の中ではモヤ
モヤした気持ちが渦巻いている。
そんな気持ちのまま、私は会社のドアを開け
た。エレベーターの前には大勢の社員が並ん
でいたので、私は迷わず階段を選んだ。
「おはようございます」
矢野課長も階段を選んだ一人だった。今日は
新製品が販売される記念すべき日だった。そ
の打ち合わせのため会議室に集まることにな
っていた。
会議室に入ると、ジュニアの姿があった。
「おはようございます、朝倉先輩。いよいよ
発売ですね」
ジュニアはとても張り切っていた。それもそ
のはず、二人して出張に出かけ、渾身の思い
をこの製品に注いできたのだから。
しかし、そのジュニアに、ある噂が広まって
いた。それは、このプロジェクト終了ととも
に、彼が本社へ移動する。という内容だった
これだけの功績をあげたのだから、当然と
言えば当然で、むしろ喜ぶべき話であった
しかし、これまで一緒に仕事をがんばって
きた私たちとしては、彼がいなくなってし
まうことは、大きな損失であり、悲しみだ
った。すでに彼の存在は大きく、頼りにな
る存在だった。今回のプロジェクトにおい
ても、会社全体が彼のことを高く評価して
いることは間違いなかった。それほど、
彼への信頼度は厚くなってきていたのだ。
そんなことを考えながら、私はテーブルに
資料を並べていた。ジュニアは、矢野課長
と話しながらモニターの準備をしていた。