デパートを出た私たちは、あるレストランの中にいた。
走ったせいか、喉がカラカラに乾いている。
店員がお水を運んできた途端、グラスを掴むと私は一気に飲み干してしまった。
それは直人君も同じだった。
二人の様子に、驚いた店員が交互に私たちを見比べていたが、「すぐにおかわりをお持ちいたします」と機転を利かせ、奥に引っ込んで行った。
いきなり店に入って来て、注文もまだなのに、いきなりおかわりなんて。
すごく滑稽に思えて、二人で顔を見合わせて笑った。
しかしすぐに直人君が、真剣な顔をして頭を下げた。
「翔子さん、さっきはごめん。不愉快な思いをさせちゃって」
「いいよ。そんなことないよ。それに直人君が謝ることじゃないもの」
私は心で思っていたこととは反対のことを言っていた。
でも、直人君に本当の気持ちを悟られるのは嫌だ。
あの子に嫉妬しているなんて、絶対に知られたくない。
「でもあのTシャツ、残念だったね」
「うん。でも一秒でもあそこにいたくなかったから」
直人君がぼそりと呟く。
その言葉は、私の乾いた心を、熱く満たしてくれた。
「お待たせしました」
先ほどの店員が、水のたっぷり入ったポットを持って、再びテーブルへやって来た。
そして空になったグラスに水を注ぐと、注文をとり始めた。
私たちはメニューを見ながらそれぞれ料理を注文すると、またグラスの水を飲んだ。
「かしこまりました」
店員は笑いを押し殺したような表情で、軽くお辞儀をすると、また奥へ戻って行った。
「俺、あいつにしつこく言われてて。はっきり断ったんだけど、何度も言ってくるんだ」
直人君は疲れた表情を浮かべながら、またグラスに手を伸ばした。
直人君の口から語られる初めての恋愛話。
まあ、告白されたってことは、直人君がかっこいいからで、仕方のないことなんだけど。
こんな話するのって、初めてかも。
戸惑いつつも、話を逸らす訳にもいかなくて・・・・。
「よっぽど直人君のこと、好きなんだね」
そんなこと言いたくもないのに、つい私の口が勝手に言葉を吐き出す。
あの子の気持ちも分かるような気がする。
直人君を好きな私としては・・・・。
「でもさぁ、これ以上は耐えられないっていうか。限界なんだよ!それで最後の手段として、好きな人がいるって言ったんだ。そしたらあきらめるだろうと思ってさ」
なるほど、そういうことだったんだ。
あくまでも最終手段として、あの子にあきらめさせるため言ったんだ。
気持ちのどこかで、ホッとしている自分がいた。
「でも今度は、それって誰?その人に会わせろだとか、しつこくってさぁ。なんなんだよ。でも俺がいい加減なこと言ったせいで、翔子さんにまで不愉快な思いさせちゃって。本当にごめん」
直人君・・・。
なんなんだろうこの気持ち。
嬉しいような、なんか悲しいような。
いっそのこと、あの時「そうだよ、翔子さんが好きな人なんだ」って、言って欲しかったくれたら、どんなに嬉しかっただろう。
ああ、なんて私は自分勝手なのだろう。
こんなにも直人君が気にして謝っているというのに。
その後料理が運ばれて来て、二人で食事をした。
結局、話はそのまま終わり、その後もこの話をすることは全くなかった。
彼の好きな人は、ただの口実。
実際のところ、そう言う人はいるの?いないの?
その疑問は迷宮入りとなってしまった。