会社のエレベーターに乗った時だった。 


後ろで女子社員たちの話声が聞こえてきた。


「今日、新入社員が来るんだって」


「えー、今頃?本当なの?」


「うん、なんか若~い男性社員らしいよ!!」


「どこの部署に?」


「そこまでは知らない・・・」


ちょうどそこでエレベーターが降りる階に止まったので、会話はここまでしか聞けなかった。


「へぇー、こんな時期に新入社員だって」


私が矢野課長に言うと、「そうね」と生返事が返ってきただけ。


どうやら矢野課長は、この件をすでにご存じの様子。


でも、彼女はそれ以上この件について語ることはなかった。



私たちの部署はビルの四階にあった。


部長をはじめ、矢野課長、そして六人の部下たちで構成されている企画開発部。


みんな優秀な社員たちだった。


今日は朝から会議が入っていたため、私は早速資料を会議室へ運ぶ準備をしていた。


そこへ部長がやってきた。


まだ会議の時間には早いですけど。


みんなが不思議そうに見つめる中、「みんなすまないが、ちょっとここへ集まってくれないか」と、部長の一声。


部長の隣には見知らぬ若いスーツ姿の男性が立っている。


誰かしらこの男性は?


始めて見る男性社員に、部署のみんなの視線が一斉に集まる。


「えー、みんなに新入社員を紹介します。今日からうちの部署に配属になった「北村幸太郎」君だ」


「今日からお世話になります、北村幸太郎です。こんな時期にと不思議に思われるかもしれませんが、実は春から本社でお世話になっておりました。広く深くをモットーに、いろいろな部署で勉強させていただいております。本日よりこちらの部署で勉強させていただくことになりました。どうかいろいろご指導よろしくお願いします」


少しも緊張した様子はなく、力強い言葉だった。


なにより元気が良い。


みんなは歓迎の意味を込め、拍手をおくった。


そっかぁ、あのエレベーターの話はうちの部署のことだったんだ。


私は、「ふ~ん」と思いながら、もう一度男性社員の顔を見つめた。


「北村君はわが社のトップになられるお方だ。みんな頼んだよ」


えっ、トップ?


部長の言葉が理解できず、隣の矢野課長をジロリと見た。


「ほら、うちの社長のご子息」


彼女は小声でそっと耳打ちした。


社長?


あっ、そっか、北村社長の息子、つまり北村ジュニアってことね!


それなら納得だわ。


確かに我が社のトップになられるお方に間違いないもの。