ホームルームで教室に行くと、いつも通り生徒たちは静寂の中にいた。
つい最近あったバレンタインデーが嘘のようである。
誕生日にプレゼントを渡せなかった女子生徒たちが、ここぞとばかりに、リョウクンにプレゼント攻撃を仕掛けてきたのは言うまでもなく。
もちろん今回は私も、ちゃんと彼に甘いチョコレートと一緒に、マフラーを渡すことに成功した。
リョウクンにとってはさんざんな一日だったようだが、これも高校生活の大切な思い出の一つだと考えると、結構楽しいことなんじゃないかな?
貰えることを嘆いている様じゃあ、もらえなかった男子生徒に悪いしね。
「では、今日は進路希望の用紙を配ります。これは最終決定と思ってください。よくご両親とも相談して記入してきてください。提出は今週末の金曜日とします」
用紙を配り、ホームルールを終えると私は教室を出て、屋上に向かった。
幸い次の授業はなく、少し気分転換を兼ねてという思いからだった。
屋上はとても寒かった。
太陽の光があたっている所は、ぽかぽかして暖かかったが、コートでもないと寒くて凍えそう。
ちょっと選択を誤ってしまったようだ。
風邪でもひいては困ると思い、来たばかりではあったが、職員室に戻ろうと引き返し始めた時、屋上の扉が音をたてて開いた。
「あれ、ミサトチャン来てたんだ」
姿を現したリョウクンに驚きの目を向ける私。
まさか、彼まで来るなんて思ってもみないことだったから。
「うん、ちょっとね」
少しドキマギした表情で答える私。
きっと顔は赤くなっているに違いない。
その理由は、彼の首に巻いている手編みのマフラー。
これは私のバレンタインプレゼント。
愛情をこめて編み上げた作品だ。
そのマフラーを、リョウクンはバレンタインデーの日以来、ずっと首に巻いていた。
登校時も、授業中も、休憩時間、下校時に至るまで、ずっとはずさなかった。
そのため、学校中でいろいろな噂が飛び交うのは当然のこと。
「ねえ、あのマフラー彼女からみたいよ」
「うそーーーー!!ショック!!」
「彼女って、凄くきれいな才女なんだって」
「田村くんに彼女が??もう、生きていけないわぁ~」
私の耳に入る度に、顔から火が出そうな思いに駆られていた。
そんな噂を知ってか知らずか、「寒くない?俺は温かいけど」なんて、彼はマフラーを触りながらうれしそうに笑っている。
「もうこんな格好じゃあ、もうここへ来るのは限界かもね」
私が寒さに震えながら言うと、彼がマフラーを私の首に巻いてくれた。
「どう、温かいだろ?」
マフラーから、彼の香水の香りがした。
私は「うん」と頷いた。
すると今度は彼が私に抱きついてきた。
「これならもっと温かいだろー?」
確かに温かい。
でも、すっかり冷えた私は、思わずくしゃみをしてしまった。
彼はそんな私を見て、笑いながら言った。
「ほら、早く戻らねぇーと、風邪引いちゃうぞぉ~!!」
彼の言うとおり。
私は急いで屋上を後にした。