「来てよ」って言われても、私には今日中にしなければならないことがあるし、それにご両親の留守中にお邪魔するのもどうかと思うし・・・。
私の心は急にドキドキしはじめていた。
田村くんの住んでいる家を見たくないわけではない。
むしろその逆、彼女だったら見たいに決まっている。
私は教師なので、もし彼の家に行くのを誰かに見られたとしても、言い訳できるので好都合。
いつもは教師だからと周りを気にすることばかりだったが、こんな時こそ教師である特権を使わなければ。
そんな矛盾したことを考えながら、すでに私の心は決まっていた。
私はプレゼント選びを後回しにして、気づくと足は、彼の家へとすでに向かっていた。
「もしもし、今郵便局の前だけど、ここからどっちに行けばいいの?」
「そこまで来たなら、もうすぐだよ。そこの信号を左に進んで、その先にコンビにあるから、そこの角をまた左に曲がって、そこから二軒目が俺んち」
私は田村くんに言われた通り、きょろきょろ見回しながら歩いた。
家に行くと二人きり、という不安もあったが、彼は以前「先生と生徒である以上、何もしない」と約束してくれたので、きっと大丈夫だと信じていた。
そして、とうとう彼の家の前にたどり着いた。
彼の家を目の前にして私は少し考えた。
彼が私の実家に行った時、彼はどんな気持ちだったのだろうと。
私の場合、彼のご両親が不在ということもあり、そんなに緊張はしていない。
でも、彼はすごく緊張したはずだ。
あのときの彼の手の汗が、なによりそれを証明している。
そう思うと、彼を偉いと思う。
そんな彼をますます好きだと思う。
そんなことを考えながら、私は少し震える指でドアホンを押した。
「どうぞ」
ドアを開け、中から彼が顔を出した。
私の顔をチラッと見ると、中へ入るよう手招きをした。
「お、お邪魔します・・・・」
「バタン」ドアが閉まる音がやけに響いて聞こえた。
その音に、体がビクッと反応する。
すると、彼は照れくさそうに頭をかきながら、リビングへと案内してくれた。
リビングはとてもいい雰囲気のお部屋で、お母さんの趣味なのか、かわいい小物がたくさん置かれていた。
すべての物がきちんと整えられ、とても掃除が行き届いているのがわかる。
私の部屋とは大違い。
きっと彼のお母さんは、きれい好きで、几帳面な人なのだろう。
「何か飲む?」
「うん、ありがとう」
私は慣れない状況に、少し緊張しながらソファーに座った。
やはり、この状況はまずかったかもしれないと、ここへ来た事を後悔しはじめていた。
しかし彼は、そんな私に何食わぬ顔でコーヒーを運んできてくれた。
「どうぞ」
コーヒーをテーブルに置くと、なぜか私の隣にピッタリ体をくっつけるように座ってきた。
「なんで?他にもたくさん座るところあいてるじゃない・・・」
「だってここ、いつも俺の座る場所だし」
彼は澄ました顔でコーヒーを飲みながらポツリと言った。
私はつい過剰に反応してしまい、顔が赤くなっていた。