「あれっ、美紗都はもう帰っているのか。おや?こっちの靴は・・・」
「そうなの、美紗都一人じゃないのよ。あっ、お婆ちゃんいらっしゃい。遠いとこつかれたでしょ。さあさあ上がってください。美紗都もお待ちかねよ」
「お婆ちゃんいらっしゃい。久しぶり。お父さん、ただいま」
「ミーちゃん、本当に久しぶりだねぇ。元気だったかい?婆ちゃんはこの通りピンピンしてるよ。どうだい、学校のほうは、先生もだいぶ慣れたかい?」
「うん、まあね」
「それより、誰なんだ?」
父は、彼の靴を指差して言った。
「実はね、素敵なお客様が来てるのよ。なんと、美紗都の生徒さんよ」
「なんでまた・・・?」
台所で父と母が、田村くんのことをこそこそ話しているのを遠くで聞きながら、私は祖母のかばんを持って、リビングへ向かった。
「おはようございます。はじめまして、僕田村亮介と言います。Y高校二年生で、中野先生にはいつもお世話になっています。今日は一家団欒のところを、突然おじゃましちゃってすみません。実は・・・」
私と祖母がリビングに入っていくと、彼はすっと立ち上がり、挨拶しはじめた。
そして、彼の挨拶が終わらないうちに、台所からやって来た母が、横から口をはさんだ。
「いえねぇ、田村君は考古学に興味があるんですって。だから今日もうちの近くの・・・、ほら、あそこの資料館。そこへ考古学の勉強をするために来たんですって。凄く偉いでしょー」
「そうなの。田村君って、うちの学校のトップの成績をおさめるほどの、とーーても優秀な生徒なの。学校の期待の星なのよ。そんな田村くんの勉強のお役に立てればいいなって思って誘ったの。資料館の話をしたら、ぜひ行って見たいって事になって・・・。開園時間まで、家に寄って行けばって誘ったの」
「まあまあ、礼儀正しい坊ちゃんだこと。私は美紗都の祖母です。今日はミーちゃんがこっちに帰ってくるって聞いて、田舎から遊びに来たんだよ。ミーちゃんの生徒さんにも会えるなんて、本当に来てよかった。今日は賑やかになりそうだねぇ」
「私は美紗都の父です。ほう、考古学が好きとは・・・。将来は、考古博士かね」
「いえ、まだそこまでは考えていません。ただ今は、興味あることに時間を費やすことも大事かなって思っています。こんなこと、今しかできませんから。型にはまらず、自分のやりたいことをやるだけです」
「ほう、なかなか考え方もしかりしてて、さすが優等生は言うことも、行動も違うねぇ」
「本当にしっかりしてて。立派だわ」
和やかに会話が弾む。
こんな光景を、つい先ほどまで想像することさえできなかったというのに。
田村くんは間違いなくもう完全に、私の家族に気に入られ、受け入れられている。
私はそのことにホッとしていた。