私たちは、とうとう実家の前までやって来た。


長年見慣れたドアが、すぐ目の前にある。


このドアを開ければ、久しぶりに家族に会えるのだが、この状況でためらってしまうのは当然の事。


「どうしたの?久々の再会で緊張してるの?」


彼はイタズラっぽく笑っていた。


「そんなわけないでしょ」


でも、やっぱりドアノブまで手が出せない・・・・。


「ほら、ミサトチャンがいかないんなら、俺が行こうか?」


そう言ってるそばから、なんと彼がドアを開けてしまった。


もう、人の気も知らないで・・・。


もう少し心の準備、させてよね。


「美紗都なの?帰ってきたの?」


ドアの開く音を聞きつけた母の声が、台所のほうから聞こえてくる。


その声に、緊張がマックスに達する。


もう逃げられない。


後は田村くんに任せて、話を合わせるしかない。


心臓がバクバクと、今にも飛び出しそうな勢いで、音をたてている。。


もうこうなったら祈るしかない。


「ただいま。お母さん、帰りました」


覚悟を決め、挨拶をする。


「おかえり。朝早かったから大変だったね。疲れたでしょ。いつまでもそんなところに立っていないで、早く入りなさいよ」


この状況の中、母の言葉に素直に従うことに無理があった。


なかなか中へ入ろうとしない私を、不審に思った母が、玄関まで見にやって来た。


その事が、私の心臓をさらに加速させた。


そればかりでなく、冷や汗まで出る始末。


「こちらの方は?」


当然のように、私の隣にいる彼を見た母が、不思議そうに言う。


私はすぐに答えることができず、何も言えないまま固まってしまった。


「おはようございます。はじめまして僕、田村亮介といいます。Y高校の二年生で中野先生にはいつもお世話になっています」


彼が、私の代わりにスラスラと答えてくれた。


「へぇー、あんたの教え子さん。美紗都の母です。こちらこそ、この子がお世話になって。ちゃんと先生しているのかしら?」


「はい、それはもう熱心に教えていただいてます。僕たちのこと、本当によく考えて下さって。今日だって、僕が考古学に興味があるのを知って、先生のご実家の近くにいいとことがあるって教えていただいて。こちらに帰るから、僕にも一緒にどうかって、誘っていただきました」


「そっ、そうなの。田村君て、うちの学校でトップの成績をもつ、凄く優秀な生徒なの。だから、常に彼の興味あることは、どんどん勉強の役に立ててもらおうと思って・・・・」


「それならそうと、電話で言ってくれたらよかったのに」


「すみません。今の時間なら開園してないから、先生にこちらで一緒に待つよう言われて。ご迷惑だとは思ったのですが・・・」


彼は本当にすまなそうに言った。


そんな彼を見た母は、慌てた様子で言った。


「いいえ、うちは迷惑なんて思っちゃいないわよ。生徒さんに来ていただいて、むしろうれしいくらいだもの。どうぞ、時間までゆっくりしていってくださいな。学校の話も是非聞かせてもらいたいわ」


彼がすごくイケメンだったからか、私のはじめての生徒だったからか、母はいつもよりテンションが高く、声が弾んでいるようだった。


「そうなの。この時間じゃまだ開いてないでしょ。こんなところに一人にしておくわけにもいかないし、それならうちへって思って、来てもらったの。田村君は随分遠慮してたんだけど・・・、ねっ」


そう言って田村くんにアイコンタクトをとる。


なんとか母は信じてくれたみたい。


「まあまあ、うちへ来たって遠慮なんかいらないのよ。どうぞゆっくりしてってちょうだい。さあ、いつまでもこんなところにいつまでも立ってないで、上がってちょうだい」


なかなかやるではないか、さすがはエリート高校のトップだけのことはある。


私の母に、少しの疑いも与えることなく、部屋に上がることができたのだから。


彼は、もっともらしい嘘をさらりと並べ、その表情は、冷静で、動揺した表情など全く見せなかった。