バスが時間通りにやってきた。


このバス停で待っているのは私一人だけだった。


まあ、こんな田舎、そうそう行く人もいないだろう。


バスの中も、ほんの数人しか乗客は見当たらない。


私は、後方の窓側に座ることにした。


私が座っても、まだバスは発車しない。


するとしばらくして、息を切らしながら一人のお客さんが、慌てて乗り込んで来た。


「すみません。ありがとうございます」


その声に、どこか聞き覚えがあるような気がして私は前方を見た。


するとそこに立っていたのは、田村亮介君だった。


私は咄嗟の出来事に、一瞬自分の目を疑ったが、確かに間違いない、田村くんだ。


彼は、私に気づくと、うれしそうに近づいて来た。


「ここ空いてます?」


彼にそう聞かれたが、私はただ驚くことしかできなかった。


「どうしたの?なんでここにいるの?」


彼に確かめずにはいられなかった。


すると、悪びれる風もなく、「だってさぁ、この前ミサトチャンが実家に帰るって聞いて、俺、どうしてもミサトチャンの優しいお母さんに会いたくなったんだよ。だからこうして来たってわけ。でも、時間に遅れそうになってさ、慌てて走ってきたんだ。間に合ってよかったぁ」なんて、言っている。


「もしもーーーし。それって、どう聞いても、私と一緒に実家に行くって聞こえるんですけど・・・。ちょっと私の耳が

おかしくなっちゃったのかしら?」


「いいえ。ミサトチャンの耳はおかしくなってないですよ。ちゃんと聞こえてます」


「じゃあなに、その一緒に行くって言うのは。そんなこと、できるわけないでしょ。私たちの関係は、全てのみんなに受け入れられるものじゃないのよ。どう説明するのよ、私の家族に」


「平気だって。俺、ちゃんと考えてきてるから。俺の言う通りに話合わせてくれればいいから。絶対にうまくいくって」


「今だってそうよ。このバスにだって、誰が乗って来るかわからないじゃない。もしここでばれたら、私たち、実家に行くどころか、もっと別の場所へ送られることになるんだから。」


「大丈夫だって。俺を信じて。仮にもしそうなったとしても、俺はそんなのどうってことない。俺は、絶対にばれない自信があるんだ。どんな手を使ったってうまくやり抜く自信がね。でも、このバスに誰か知り合いが乗ってくる確率は、ゼロに近いけどね」


「本当にあなたって人は・・・・。その自信は一体どこから来るのかしらね」


彼があまりに真剣な目で私に訴えかけるので、とりあえず彼を信じてみることにした。


心のどこかで、彼のようなエリートなら本当にうまくやれるんじゃないかと期待も少しはあった。


でも、前途多難な一日になることは間違いなさそうだ。


一歩間違えば全てを失うことになる。


「まあ、そういうわけで、楽しく行こうぜ!」


呑気な彼に、思わず吹き出してしまった。


私の不安の十分の一も彼は感じてはいない。


これも田村亮介の凄いことの一つなのかも。