そんなことをぼんやり思い出しながら、私は教室に向かった。
今日はこれから生徒たちに、テストの成果である「成績表」を渡すのだ。
渡すのはもちろん担任の仕事、なんとも皮肉な役回りである。
担任である私は、田村くんに渡さなければならず、どんな顔して渡せばよいのか、そのことばかり考えていた。
結局昨夜は一睡もできなかった。
もちろん、眠れなかった理由はそれだけではない。
彼が全教科満点をとったことで、どう彼に応えればいいのだろう?
自分の気持ちを押し殺してまで、嘘をつき続ける。
この方法しかないのはわかっている。
だけど・・・・。
そんな気持ちのまま、私は教室のドアをあけた。
真っ先に目をやったのは、やはり彼の机だった。
しかし、そこに彼の姿はなかった。
なんだ、今日はお休みなの?そう思うと少しがっかりした自分がいた。
昨夜、眠れないほど悩んだのに、なんでいないの?やっぱ、本気じゃなかったわけ?
「それでは、テストの結果が出ましたので、今日はみなさんに待ちに待った成績表をお渡ししたいと思います」
早速、みんなが心待ちにしているであろう成績表を渡し始める。
「みんな良くがんばりましたね。この調子でこれからもがんばりましょうね。今日は合わせて進路希望の用紙も配ります。金曜日までに記入して提出してください。この用紙は、進路指導の林先生にお渡しします。よく考えて記入して来てください」
生徒たちは、成績表を見ながら、歓声の声をあげたり、不満そうに顔をしかめたりと、様々だった。
そんな彼らを見ながら、私はふと、ある言葉を思い出していた。
「俺がいなかったら、ここだと思って・・・」
まさか?と思ったが、教室を出ると私は直ぐに屋上に向かって階段を駆け上がっていた。
彼は今、屋上にいて、そこで私が来るのを待っているような気がしてならなかったから。
「やったー!俺、ミサトチャンが来てくれるってずっと念じてたんだよ」
やはり彼は屋上にいた。
嬉しそうにこっちを見て笑っている。
こんな雨の日に、屋上に来るなんて・・・・。そんな誰も考えないこと、どうしてこの子はするんだろう。
私だって、こんな日に来るのは初めてなのよ。
それなのに、なぜ彼はここにいる。
あんなに言ってたテストの結果が、気にならないのだろうか。
私が思うほど、彼は気にしていないのか。
そう思うと、だんだん腹が立ってきた。