「えっと、あなたが田村君ね。初めまして私は中野です。先ほど挨拶はすませたから今更しませんが、今後は遅刻なんてしないでくださいね。この時期はとっても大事時期なのよ。もっと時間を大切に使わなくちゃね」
私がそう話し終えると同時に、彼はいきなり机にうつ伏せた。
そして片手を上げ、「了解しました」と言うなり、それ以降、顔を上げることはなかった。
ますます混乱してくる。
しかし、この生徒だけに、時間を割くのもいかがなものか?
そう思い直し、私は授業を続けた。しかし、この生徒のことが気にならない訳がなかった。
このエリート校に相応しくないこの容姿、髪は金髪、服装も少し乱れているようにも見える。
授業を続けながらも、時折彼に目がいってしまうのは仕方のないこと。
なんとも目立ちすぎである。
でも、金髪は彼には似合っていわね、なんて思ってみたり。
なぜなら彼は、一瞬だがとても美しい顔立ちをしてるように見えたからだ。
大きな瞳、鼻筋も通っているその顔は、かなりのイケメンといえる。
それを、この金髪が邪魔しているように思えてしまったからだ。
彼の出現により、緊張の糸もすっかり切れてしまったらしい。
そんな中、時間は過ぎていき授業終了のチャイムが鳴った。
「では、ここまでにします」
「起立、礼」
生徒が号令をかけ、最初の授業が終わった。
何とか無事終わったとほっとしながら教科書を片付け、ふと田村君のほうへ目をやると、とても眠そうに目をこすりながら、彼が私に手招きしている。
驚いて彼の席へ近づくと、彼は黒板を指差し小さな声で言った。
「先生、あそこのスペルは r だよね」
私は、「えっどこ?」と彼の指差すほうを探してみる。
確かに間違っている。
この子って、ほとんどの時間、机に伏せって授業を聞いていなかったし、黒板も見ていなかった筈。
それなのに、一瞬でその間違いに気づくなんて。
私は彼のすごさに驚いたが、わざと冷静さを装い、敢えてこう答えた。
「本当だわ。ありがとう。でも、田村君の遅刻と、これで引き分けかしらね」
後になって考えると、よくこんな子供じみたことを言ったものだと、すごく恥ずかしく思う。
しかしその時は、田村君に負けたくないというか、負けられないという思いから咄嗟に出たのだった。
「先生、黒板消しちゃってもいいですか?」
女子生徒の言葉にふと我にかえる。
「今度はちゃんと授業うけてくださいね」
「了解です」
彼はまだ眠そうな顔で、そう答えた。