老後、突然日本に戻って生活すると言い始めた兄。

それまでは、独身だったり、バツイチだったり、結局子供にも恵まれず

日本を飛び出した時のまま、大人子供の様な状態の兄。

我が家にも来た事がない。もちろん、妻や子供にも1度程しかあったことがない。

コロナ期間を除き、年一回なぜか11月に決まって一時帰国する。

おそらく、欧米路線で一番安い時期なのだろう。直行便でなく、北欧かどこかを

経由して物凄い時間をかけて帰ってくる。そんな時期にしれっと実家に帰って

しれっと戻っていく。お土産を実家においていってくれるだが、うちの子供には

いつもチョコとグミ。今時幼稚園児でも見るからに外国のチョコとグミは

ノーサンキューだろう。でも、仕方ない。子供がいなければ、相場も

流行りも分からなければ、まともな物を買う予算もない????

ちなみにうちの子は再来年成人式。だけど、生まれてこの方会った事がない。

遊びに来てと何度か誘った、実家で会おうと思っても、学校がある時期にしか

帰らない。まぁそういうメッセージなんだと解釈して放っておいた。

その兄が、海外から(恐らく)独り身で日本で老後死ぬまで、

あの土壁崩れ、今にも倒れそうな実家に住むと言い出した。

私「住むのはいいが、誰に引き継ぐのか?」

私「住むだけ住んで死んで後よろしくはやめてくれ」

兄「・・・・・・・・・・・。」

兄「・・・。近くに唯一住んでいる親戚筋に頼む」

私「なんの付き合いもしてないのに、それは無理だ。家は取り壊し、田畑は譲渡し

故郷に迷惑のかからないように終わらせたい!住みたいならよそに家借りて

住んでくれ!」

兄「・・・・・・。」

私「そもそもそんな年齢で戻ってきて、田舎社会でどう生きる?スーパーに

車で30分、駅まで車で40分。みんなその年齢まで地域で助け合って生きて

自分が助けが必要な年齢になったら助けてもらうもんだ。海外で好きに暮らして

最後迷惑かけて欲しくない」

兄「お前は頼らない」

私「頼らないと言ったって、病院、施設、色々なタイミングで保証人や付き添いが

必要となる。物理的な距離でとても保証人にはなれないし、呼び出されても

対応出来ない。」

兄「誰か見つける」

 

こんな問答が続いた。

 

20代で単身海外へ行き、一人でやってこれた自負があるのだろう。

でも、兄よ、それは都会だからやってこれたのだよ。

東京の様な都市部ならばそれも可能だろう。

サービスやインフラ、公共交通、飲食、環境が整っている。

お金さえあれば可能だ。

だが、人口の6割以上が65歳の故郷では、帰るころにはそれが

70歳以上になるだろう。地元の話を聞く限り、皆40歳迄には

地元に戻り、家業を継いだり、農業や林業などに従事して

地域に根差した生活基盤を築いている。

兄は「相続放棄」した私に当てつけているのだ。

「俺がこの家を守って見せる」と気概を見せたいのだ。

だが、私にとっては相続のお荷物が、一つ増えたに過ぎない。

一々意見を言ったり、こちらの考えを理解して貰おうなどとは思っていない。

私だって、そんな決断したくてしたわけではない。

自分が死ぬまで、ボロでもいいから実家はそこにあって欲しいし、

今は仕事や家庭に充実した日々だが、いつの日か歳をとり、

昔を懐かしむ時が来た時に生まれた場所に戻り、

父や母や祖父母を懐かしむ場所があるというのは何物にも代えがたい。

しかし、それは個人1人の力ではどうにもならない。

沢山の人が去り、生活の場としての能力を失っていく故郷に

すがり続けることは、出来ない。

 

だから、兄が何を言おうと、粛々とその時に向かって準備をするだけだ。

それが、私なりの故郷に対する恩返しだと思っている。