こんにちは。

 

 

今日はドライドックでのことについて書きたいと思います。

 

 

貨物船の場合、二年に一度の頻度でドライドックと呼ばれる修理工場に入ります

 

 

造船所がアフターサービスの一環として行っている所もあれば、修理工場専門のところもあります。私は某外国の修理工場専門のところに行きました。

日本の船会社のLNG船は、三菱重工長崎造船所や川崎重工坂出造船所で作られた船が多いのですが、10年程前までは造船所のドックに入っていたようです。なんでもかんでも経費削減という昨今の流れから、最近はシンガポールや中国など安く工事を請け負ってくれるところに行くことが多いです。余裕がなくなっていて残念ですね。

 

 

二年に一度ドックに行くのですが、船員として乗船していると意外にもドックのタイミングと被ることは多くありません。船員人事課も配乗の際に、特定の人にドック行きが偏らないように配慮しているということもあると思います。5~6か月乗船が多いのですが、私は入社後6隻目にして初めてドックに行くことになりました。

 

 

ドック前最後の揚げ地を出港し、ドックに行き、初積み荷をするまでの航海のことを「ドック航海」と呼びます。基本的に貨物艙は空っぽの状態です。自動車船やLNG船は外から貨物が見えないので、傍目には通常航海なのか、ドックへ向かう航海なのかは分かりません。この航海では、船内の養生をはじめドックに向けての最終準備を整えていきます。

 

↑ドック前の士官食堂の様子。

 

 

↑船の後ろ側です。これはドック前ではないのですが、ドック前には貨物はない状態での航海となります。コンテナ船は外から貨物が見えるので、とてもわかりやすいです。

 

 

LNG船の場合、日本の基地でLNG貨物が揚げられ出港すると、タンク内に残っている有毒ガスを酸素に置換する作業が行われます。1週間くらいかかり、LNG船のドック航海と言えばこれが全てともいえるほど重要な作業です。ドックでタンク内に作業員・船員が入って点検・工事をするため、非常に重要です。責任者である一等航海士はこの作業が無事に終わると、大きく安堵します。船内の雰囲気もホッとしたものになります。

 

 

しかし安堵もつかの間、あっという間にドックに入港となります。

ドック航海では貨物が全くないため、船体が軽くなっています。ということは、普段より浮き上がった状態となっているので、プロペラが海面から出ないようにバラスト水で調整するのが一等航海士の仕事です。バラスト水とは船底タンクに注排水する海水のことで、船体姿勢の制御に使用されます。なぜプロペラが海水から出てはマズイかというと、プロペラが空転してしまいエンジンに過負荷がかかるからです。水中抵抗の大きい海面下ではゆっくりと回るプロペラも、外気に出てしまえば高速回転してしまうのです。

 

 

「ドライドック」とググってもらえれば分かりますが、ドックとは巨大な水槽に船が入り、その後海水が抜かれる感じです。イメージを掴んでもらうため、下記写真をご覧ください。

 

 

↑船底は木材で支えられています。海に浮かんでいた船体がこんなにバランスよく支えられるものかととても驚きました。

 

 

↑ドックでは陸のクレーンが大活躍します。必要な資材はクレーンから供給されます。

 

 

↑錨も全て繰り出してピカピカに塗装してもらいます。

 

 

 

↑プロペラ付近に足場を組んで修理してもらいます。船底から甲板までは30mあります。

 

 

↑隣にも工事中の大型タンカーが見えます。オレンジ色の救命艇(真ん中に見えます)も陸揚げして修理してもらいます。オレンジの塗装は船員が担当します。

 

 

通常航海中にはできないような大掛かりな作業をまとめてドックにお願いする感じです。

日常の会話でも、大掛かりな作業・危険を伴うのでできれば部下にさせたくない作業は、「ドックでやってもらおうか」というように、船員にとってドックとは非常にありがたい存在です!

 

 

外板塗装(船体の外側)もドックの重要な作業です。写真はないのですが、ドック出港後の船は見るからにピカピカになっています。

ドックへ行く前の私は、甲板整備もドック作業員がやってくれて新品のようになるのではないかと思っていましたが、それはありませんでした。船にもよりますがドックの工期は約1か月です。全長300mの船は巨大なので時間が全然ありません。外からは見えないバルブの整備など地味な作業が実は大半を占めるのです。

 

 

工事のほかにもドックでは粗大ごみを陸揚げします。船内で出た燃えるごみは船の焼却炉で処分します。日常生活で出るプラスチックはゴミの陸揚げができる基地で陸揚げします。ところが、(特に先進国の)港でのゴミの陸揚げは高額です。大量の陸揚げはなかなか認められません・・・

そこでドックに入った機会に、故障した洗濯機をはじめあらゆる粗大ごみを陸揚げします。コンテナ船のように世界各地を巡る船の場合、安く陸揚げできる港(スリランカなど)で陸揚げすることも多いです。

 

 

ところで、一旦ドックに入ってしまえば、作業自体はドック作業員が担当します。その間士官は何をするのかというと、自分の担当作業の監督がメインです。作業をつきっきりで監視する必要はありませんが、要所要所で確認をします。バルブの整備後、水漏れは本当に止まったかといったことを彼らと一緒に確認します。

三等航海士であれば救命艇・消防設備関係の作業、二等航海士はレーダー・ソナー等航海計器の作業が担当です。上司である一等航海士から命じられれば、その都度他の工事も監督します。

 

 

また工事仕様書に書いてあるのにやってくれていない作業があれば適宜交渉することになります。私が行った某ドックの作業員は非常にフレンドリーで、決められたことをやっていないということはありませんでした。この辺の事情はお国柄によるところも大きそうです。

 

 

ちなみにドック期間中は航海当直がないため全員9-17時勤務となり、普段は顔を見ない二等航海士も珍しく毎日ツナギを着ています!航海していないので、もはや「航海士」を名乗るのもおかしな感じですが・・・。

 

 

工期の一か月間、ドック作業員は交代制で毎日船にやってきて、工事をしていきます。日本の造船所は土日休みらしいので、羨ましいなとよく思っていました(笑)

ちなみにドックの作業員はドック近くの寮のような宿泊所で暮らし、シフトが入ると船までくるといった形です。船員は航海中と変わらず船の中で暮らしています。ドック中は必要な電力はドックから給電してもらいます。

 

 

ドックでの生活と言えば何といっても上陸です!私は市街地からとても離れたドックに行ったため、残念ながら上陸はかないませんでした・・・

シンガポールのドックは市街地に近いので、毎日飲みに行く船員も多いようです。

物価も高いので、お金が無くなってしまいそうですが・・・