辻井伸行を語る” ラフマニノフ&リスト。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

彼に生まれつき視力障害がある事は周知の通りだが、私は常々その事が彼にとってのハンディだとは思っていない。確かにその事を健常者が語るのは甚だ節度を逸している側面もあらう。…がしかし彼は元々 ものが見えるとか見えないとか と言う価値観にとらわれる事 自体に大きな意味を感じていなかったのではないか。これが後天的な疾患により視力を失ったなら そこにはある種の悲壮感や絶望にも結び付いた可能性は否めない。しかし彼は生れながらにして この運命を背負っている。だからこそ 今、彼の心眼は最高に研ぎ澄まされ 超絶的技巧を手中に収め その若さにして驚くべき表現力と音楽的美質に長けた ピアニズムの体現を成す存在として世界各地で絶大な成功を収めているのだ。この収録はイギリスBBC恒例のフェスタでの演奏であるが その壮大で尚且つデリカシーに富んだ見事な演奏はまさに 比類がない。彼は最早【盲目のピアニスト】などと わざわざ注釈を付ける必要などない孤高の存在だ。今は亡き名ピアニスト、ヴァン・クライヴァーンの名を付したコンペに優勝して はや十年。今や成熟…いや円熟期に入ったと言っても過言ではない我が国の生んだピアニスト辻井伸行の演奏。とくとお聴きあれ。【神がかり的】とはまさに この様な演奏を言うのである。
(ルチアーナ筆。)
ラフマニノフ”
第二ピアノ・コンチェルト。

アンコール。リスト”
ラ・カンパネラ。(超絶技巧練習曲)。