楽興の時” シューベルトをホロウィッツで。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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今や伝説となった20世紀屈指の偉大なピアニスト、ウラジミール・ホロウィッツ。
晩年期 、いく十年の沈黙を破り ステージへの復帰を果たし 我が国にも訪れた この稀代の名手が 弾くシューベルト。これはリサイタルでの アンコールで弾いた【楽興の時】の第3番である。大変短い曲だが又、大変高名な曲でもある。私は常々この短曲にこそ、シューベルトの芸術的美質の根幹があると思っている。快活でありながら気情を無理に立ち上げる事はなくマイナーで品位の高いリズミカルで叙情的な旋律に包まれ美しくも切ない情感を見事に描き切った最上・第一級のピアノ曲。【楽興の時】はシューベルトの一連の歌曲群に匹敵する無二の小品である。そして それを極上の演奏で体現する奇才ホロウィッツの芸術性にも今更ながら脱帽だ。こんなピアニストは もう二度と現れる事はあるまい。何故ならその存在自体が奇跡であったのだがら…!。
(ルチアーナ筆。)
★ホロウィッツは生前、晩年期に二度来日しているが…初回はその出来が余りにも不調で【もう限界か!】とか【腐っても鯛とでも思って受け入れておけば良い。】などと前評判が高かったがゆえ、酷評された。…が彼はリベンジと言わんばかりに再来日を果たし 前回の不評を払拭、見事な演奏で日本の聴衆を改めて納得させた。それは空前絶後の巨匠の名誉をかけた反撃であったに相違あるまい。
因みにホロウィッツ夫人はかの伝説のマエストロ、アルトゥーロ・トスカニーニの娘である。