7/10Eテレ クラシック音楽館”は久々に清々しい空間感に満ち溢れたN響のアンサンブルに接する事が出来 癒された。5月の定期公演から今回のオンエアは昨秋N響の首席指揮者に就任したパーヴォ・ヤルヴィの父親で名匠の誉れ高いネーヴェ・ヤルヴィが客演し話題となったカリンニコフの交響曲第1番G-mollとベートーヴェンの交響曲第6番「田園」F-durの二曲、いずれも実に心暖まる充実の名演であった。一曲目のワシリー・カリンニコフ作曲の交響曲第1番は私に取って初視聴の作品であったが、その濁りのない強靭さと明確で洗練された美質とロマンティックで多様性に富んだメロディーが全楽章を網羅し厳選された民謡から巧みに編入されたテーマが実に涼しげに躍動する その様はまさにロシア音楽の典型であり、思わず聴き耳を立てたくなる程の素朴にして実直な その佇まいに暫し聴き惚れる思いであった。続くベートーヴェンのパストラーレ”は今更言うまでもなく音楽史に刻まれた一連のベートーヴェンの不朽の名作の一翼を担うもので その内容は多くを語るを要しない。だがいずれにしても今ブログラムの成功は精度を増したN響の資質の向上に他ならないのと同時に 何んと言っても今回タクトを担ったネーヴェ・ヤルヴィの老練な指揮ぶりにも大きな役割があった事も念頭に置いて然るべきである。派手さも気負いも一切ない純粋でひたすら音楽に寄り添うその姿は息子パーヴォとは全く次元を異にする整然たるバトンさばきである。醸し出される音楽のあり様は端正の一言。これ程そこに展開される音楽に聴き手が身を委ねて安堵の気持ちを得られる深い精神を秘めた演奏には そう滅多に遭遇する事もあるまい。音楽の規模の大小に関わらず細部まで行き届いた頑なほど規律正しい音楽表現と温度感の両立、聴き手はいつしか襟を正して 聴き入りその演奏の美観の虜になってしまう。しかし肩をこらす事はない。繰り返すが そこに広がるのは安堵感だ。より良い芸術、優れた芸術に遭遇する事は人生に於いて これ程の喜びはない。ヤルヴィ家の長 ネーヴェのタクトから生まれる音楽はその喜びを極上の領域にまで誘う最高・最良の質感を備えたものである事を指し示す まさに道しるべであった様に思えるのである。
(ルチアーナ筆。)
★ヤルヴィ家はネーヴェの
子供三人が全て、今や世界的
音楽家である。長男パーヴォと
弟は父親同様 指揮者。長女 は
フルーティスト 。家族一同で
世界を駆け巡る 天才一家
である。