時代は独裁者を求めた”。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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新・映像の世紀【NHK総合】12/20オンエアのこの番組こそ、今我々が最も心して受け止めなければならない時代的認識が秘められている様に思われる内容に満ちたものだった。1930年代第一次世界大戦の傷跡に苛まれ疲弊のどん底に喘ぐドイツ。そこに気鋭の力強いリーダーシップを持った政治家が現れる。当時まだ極小政党であった国家社会主義労働者党【ナチス】の党首アドルフ・ヒトラーである。議会合議によって停滞する政治行政の非効率を徹底して排し独裁統治を持って強力に政策を遂行するファシズム思想を絶対無二の理想の政治体系と信じるこの男が後に国際法と世界秩序を乱暴に踏みにじり未曾有の犠牲とおぞましき惨劇を生み出す張本人である事をその時はまだ誰も知らないのである。本ドキュメンタリーはそうした時代、巧みに民衆の心を蝕み手懐け虚構の自由・平和をちらつかせドイツ政治を日1日と我が物にしようと目論むヒトラーの巧妙な手法とそれに躍らされ熱狂する当時のドイツ国民の様子を真実の映像を持って我々に突き付ける所から始まる。したたかな裏工作と自作自演の国会議事堂の爆破により国家の存続に対する国民の危機感をあおり、こうした蛮行の責任を全て【共産主義者】の仕業だと一方的に断じこれを理不尽な濡れ衣を被せて厳しく弾圧し非合法化、暴力的脅しをかける中ワイマール憲法の完全な空洞化と議会にはナチスの独裁に道を開く【全権委任法】の成立をいわば強制。それによりナチス以外の政党は全て解散を強いられる事になるのである。自らの飽くなき支配欲と領土拡大路線に国の進路を完全に同化。ヒトラーはその後程なく欧州全土に【魔の触手】を伸ばして行く事となる。【ニュルンベルク法】の制定によりユダヤ人への迫害は最大級にエスカレート。強制収容され否応なしにガス室送りとなってその命を奪われた人々の数は幾百万にものぼる。こうして【身の毛も凍る】様なおぞましき事態に立ち至るのである。映像はそうしたかつて繰り広げられた【この世の魔界】をつぶさに描き切る。日本・イタリアも共にナチスと同盟し悲惨な戦争と他民族支配と差別に突き進む。そして1945年、民主主義の勝利と共に世界はファシズムの恐怖からようやく解放される。自らの死を前にしてヒトラーはこう言い放ったそうだ。【ナチズム思想は今日、私と共に消滅するがこの後100年後には理想を求め新たなナチズムが生まれるだろう!】背筋が一瞬にして寒くなる様な恐怖の捨て台詞である。しかしいつ何時ヒトラーが残したこの言葉を現実にする様な輩が現れるとも限らない。確かに【時代は独裁者を求めた”。】事に相違ないのだ。我々が肝に銘じて置かなくてならない事はその歴史的事実をしっかりと見据え、二度と再びこうした危険思想が蔓延る事のない様世の中の動向に鋭い監視の眼を注ぐ事だ。それをおいて平和・民主主義を守る手立てはない!。
(ルチアーナ筆。)