永遠の華”。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
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昭和のまさに芸能界・映画界に華麗に咲いた一輪の花。清楚で極限にまで高められたその気品。昭和36年「忠臣蔵」の大石りく役を最後に忽然と銀幕からその姿を消した女優【原節子】が亡くなった。享年95歳であったとの事だ。45歳と言う女優として最もその活躍が顕著であったその時、何んの理由も明らかにせず会見もなく引退して半世紀。全くその後公の場へ登場する事もなく度重なるマスコミの取材等にも頑なまでに応じる事はなく世間とは完全に隔絶した環境に自らを置き悠々自適な日々を送り最後はひっそりと旅立った。真に孤高の生涯を全うしたと言えよう。若くしてその美貌を高く評価されるも、その美的センスとは裏腹に演技そのものは硬質でお世辞にも上手いとは言えない等と酷評され、悲嘆に喘ぐ時もあったやに聞くが、程なく名匠・小津安二郎、黒澤明始め数多の巨匠の目に留まる事となり一気にその才能が開花するのである。名作の誉れ高き「東京物語」を頂点に名女優の名を不動のものとした【原節子】。これぞ昭和の銀幕に咲いた
【永遠の華】と呼ぶに相応しい。振り返れば当時はまさに名優活況の時代であった。名バイプレーヤーとして名を成した笠智衆、暖かな佇まいで最高の気品を示す演技派女優、東山千栄子etc。東京物語で【原節子】と共演した歴史的名優である。映画界も又活気を呈し東宝、東映、大映、日活、松竹の大手五社は競って娯楽映画作品の制作に取り組み、そこには数多シリーズ化された著名作品も夥しい。しかしそうした時代もTVの普及と共に斜陽化と衰退の一途をたどり新たな方向性を模索するに至る。【原節子】が銀幕にその美の頂点を極めた時代はまさにスター、イコール映画俳優・女優を指す言葉であった。あれだけのカリスマ性を持ち引退して半世紀を経過して尚、その死がこれ程のインパクトを世に与える女優などもう二度とは現れまい。そしてこの際我々はもう一度女優【原節子】の華やかなりし活躍を時代の流れとして認識すべきではなかろうかと思う。彼女の出演作には古き良き時代の日本人の良識、モラル。そして何よりも清純で裏表のない無償の愛、人が最も心がけるべき規律と自然で優しい範たる人生の道しるべとも成りうる美しい佇まいがある。心静かに数多の名作の中で【原節子】が演じる女性像を垣間見た時我々は個々に何を想い何を感じ取れるだろう。この週末は心温まる名作の中に女優【原節子】を通じて古き良き時代の日本を感じ取るそんな時を過ごしたら如何だろう。諸兄にはその辺をお勧めしておこうと思う。『良き映画を選んで見よう!そこに描かれた【永遠の華】をしかと見届けよう。』これが私が深き信念でもある。
(ルチアーナ筆。)