N響” 新なる時代へ…! | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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NHK音楽祭。本日のEテレ、クラシック音楽館はその二週目となるNHK交響楽団の公演。指揮はこの度首席指揮者となったP・ヤルヴィである。プログラムはこの音楽祭のN響のメインとしては珍しくフランス音楽。いずれも名作のオンパレードと言ったところであった。ご承知の通りN響はその設立から確立期にかけて殆ど全てに渡り生粋のドイツ音楽を主流とした育成課程をたどって成長を重ねて来たオーケストラである。カイルベルト、マタチッチ、サヴァリッシュ、スイトナー、シュタイン等々特に70年代から90年代にかけては世界のそうそうたる名指揮者の薫陶を受け我が国の誇る世界に名を馳せるに相応しいオーケストラへと大きく成長した事は周知の通り。そして今日そうしたかけがえのない歩みを強固な基盤としつつ尚且つ楽員の若返りと共に団のサウンドイメージも諸々な意味で様変わりした様に思われる。そして又今回首席指揮者にヤルヴィを迎えた事でより一層その頻度は一段と高まった様に思われるところだ。そしてまさにその顕著な実例が今回の音楽祭の演奏によって見て取れる。ラヴェルのピアノコンチェルトとベルリオーズの幻想交響曲、前後半の各々中心的演目となったこの二曲、ヤルヴィの指揮はいずれもその音楽的軸は微動だにしない。統率力と音楽的柔軟性と表現の瑞々しさ、N響からこんなサウンドが奏でられるとは…!。実に新鮮な驚きを禁じ得ない。【N響”新時代のサウンド】これはまさにN響が非常に幅広く諸々のサウンドイメージをトータルバランスの中で展開出来る壮大な許容力を身に付けた明らかな証拠であろう事は一聴で理解し得る。ラヴェルのコンチェルトにおけるJ・i・ティボーテのピアノの何んとも達者な事。これも又清々しい限り。重厚さと透明度を合わせ持つラヴェルの音楽の奥行きの広さと巧みなオーケストレーション。ピアノとオケ共に持てる音を鳴らし尽くすその様は実に刺激的だ。これもヤルヴィ、ティボーテ、N響の三位一体で形成される極上の世界観の構築と言えよう。ベルリオーズの幻想交響曲ではヤルヴィのパワー全開。まさに面目躍如たる壮大な音楽観を惜しげも無く提示してくれた様に思う。理路整然とした佇まいから決して突出する事のない冷静なバトンさばきは音楽的美質を誠に丁寧に醸し出す。生真面目でありながら心暖かい雰囲気を常に維持し、若き芸術家の夢想・幻想の世界観を寸分の狂いもなく描き切る。こんな演奏を聴かされれば聴き手は飽きる筈がない。音楽を鑑賞する真の喜びとはこうした極めて上質な演奏に接した時に味わえるものである。クラシック音楽の素晴らしさ、感動の深さは今更ながらだが時間の推移を意識の外に置き、その時々に我々に与えられた芸術的美質をとことん受け入れる事が可能かどうかで決まるものだ。誠実で高い意志を持った演奏は我々に計り知れない感動の時を与えてくれるもの。P・ヤルヴィ統率の下、N響の【新なる時代】は確実にそうしたオーディエンスの切なる願いに充分叶うものとなるだろう。今日とオンエアはそれを我々に大いに感じさせてくれるに充分過ぎる程の充実のステージ記録であった。さぁ~そして今年も残すところ1ヶ月半に押し迫り暦の上では【立冬】を迎えた。12月(師走)は言わずと知れた恒例の【第9】のシーズン。その【第9】で今年のN響はさてどんなパフォーマンスを展開してくれるのだろう。明らかに変わり目を迎えた今年のN響である。今年は久々にそれを楽しみに待つ事にしようと思う。
(ルチアーナ筆。)
★今日のオンエア、冒頭はドビュッシーの
プレリュード【牧神の午後】であった。正直私はちょっぴり苦手な作品だが、やはりここでも優雅で透明度の高い神秘的で豊かな表情描写は特筆に価するしたもので、今まさに乗りに乗るヤルヴィのバトンテクの妙味を物語る最高のパフォーマンスであった。とにかくN響も良く彼を首席に迎える事が出来たものだと感心仕切りである。彼も又欧州に拠点を置きながら尚、極東の小国日本のオーケストラからの重大なオファーを先ずは心良く受けたものだとこちらにも感心している。いずれにしても、この関係は当分良好に推移するだろう。そしてこれは我が国の音楽シーンを彩る近年稀なる吉報である事は間違いない。今後に期待は絶えない。