先の大戦により焼土とかした
我が国の戦後復興の
大きな希望を担う役割を
果たしたのが、ラジオから
流れる希望に満ちた数々の
歌であった事は紛れもない。
【りんごの歌】に始まり
島崎藤村の詩による【椰子の実】に
至るまで、品位と芸術性を
兼ね備えたこれらの名歌は
後に教科書に掲載される程の
高い価値を持って日本人の心を
慰め励ます基盤となった。
これを我々は国民歌謡と呼んだ。
そして、これらの名歌を
はつらつと歌い、人々を感銘へと
誘ったのは皆、クラシックの
基礎、即ちベルカントを学び
声楽家としての力量に富んだ
まさに本物の歌手達であった。
【高原列車は行く】を歌った
岡本敦郎もそうした一人である。
先年亡くなるまで生涯現役を
貫き、声楽の教師としても
後進の指導にあたり、
美しい日本語にこだわり
正しい発声と読譜の重要性を
とことん指導の中心に
すえた範たる偉大な歌手、
そして指導者であった。
今、乱れに乱れた歌の世界に
置ける言葉の有り様は嘆かわしい
限りだが、こうした王道を志した
人々の心に少しでも寄り添う
理知的で教養に溢れた
関係者が一人でも現れてくれればと
淡い想いを持ちつつ
私は今現在もエンタメ界を注視して
いるのだが…!。