帝王H.V.カラヤンが
その生涯でただ一度
指揮を受け持った
あの歴史的
ニューイヤーコンサート。
世界最高のオーケストラ、
ウィーン・フィルはこの時
完全にカラヤンの楽器と化し
当時まだ創成期にあった
ライヴデジタル伝送での
目を見張るほどの優れた演奏と
その高音質にあらゆる意味で
音楽表現の新たな可能性を
全世界が同時に目の当たりに
した。それがこのコンサートの
歴史的意義でもあった。そして
それにも増してこのコンサートの
まさにハイライトは歴史に彩られた
数々の名演をを生んだこの元旦の
イベントにおいて、今日に
至るまで唯一の
ゲスト・ソリストとして
名を留めるソプラノ、
キャスリン・バトルの登場と
その見事な歌唱であった。
可憐で優雅この上ない美声に
よるその歌声は今だ記憶に
深い印象と感銘を残すものだ。
ウィーン伝統の歴史的
コンサートにカラヤンの指名で
しかもアメリカ人でついでを
言えば黒人で有る彼女があらゆる
人種的枠組みを超え招かれ、
まるで天上から降り注ぐ
光にも似た極上の美を声によって
体現してくれたのだ。本当に
このコンサートは後にも先にも
匹敵するものとてない
空前絶後の名演中の名演で
あった事、私達はその生ある
限りそれを伝える事を惜しまない。
ヨハン・シュトラウスのワルツ
【春の声】オリジナル。
この時の模様は永久保存版として
私もキープしているが諸兄にも
どうか一見一聴を強くお薦め
しておかなくてはなるまい。
さて今日、私はそんな
キャスリン・バトルが1984.8月。
ザルツブルク音楽祭で開催した
リサイタルのライヴ録音を
久々に聴いている。
この日ピアノ伴奏を
担当したのは世界的指揮者の
一人ジェームズ・レヴァインで
ピアニストとしても超一流の彼の
名サポートを得てこのリサイタルに
おいても、彼女は完璧な歌唱を
繰り広げている。
ヘンリー・パーセルから始まり
ヘンデル、メンデルスゾーン、
リヒャルト・シュトラウス、
後半はモーツァルトそして
ガブリエル・フォーレ、最後は
おはこのゴスペルソングと
どれを取っても美しく、瑞々しく、
心に染みる名唱だ。これだけ
アカデミックでバラエティーに
富んだ選曲をこれほどのハイセンス
で芸術的信念を持ってしかも
オーディエンスを極上の美へと
誘い楽しませてしまう。真に
天才の技とはこの様な事を
言うのであろう。これも又、是非
一聴して頂きたい孤高の記録で
ある。全盛期から既に30年
キャスリン・バトルの昨今の
様子は久しくその噂すら聞かない。
しかしこの類稀な美声を持った
リリック・ソプラノの存在は
間違いなく近代演奏史にその名を
刻む【天使のささやき】とも形容
される美の結実である。
その事は忘れ様とて忘れる事の
出来ない厳然たる事実だ。
もし彼女の歌をその身にまだ
体験していない人がいたなら
音源の何たるかは別として
やはり耳してみる事だ。
その美しい歌声に一瞬我を
忘れる想いに駆られる事必定だ。
(ルチアーナ筆。)