歌劇「トスカ」”私が愛せしもの。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

プッチーニの歌劇「トスカ」。
私は何度も言って来たが敬愛して
やまないこのプッチーニの
代表作を又、ここで取り上げる。
かのマリア・カラスの名唱でも
名高い、知らぬ者とてない名旋律。
アリア【歌に生き恋に生き。】
第二幕のクライマックスを飾る
この名アリアが歌われた直後、
巨悪の祖スカルピア男爵を刺殺し
悲劇の引金を弾いてしまった歌姫
トスカの止まりを得る事とて
出来ない悲しい結末への
プレリュード。劇的展開を無類の
旋律美と壮大な
オーケストレーションを駆使して
描くプッチーニ音楽の世界観。
感動の一語に尽きる。劇場の為に
生涯を捧げた作曲家の血潮が
物語に悲劇と言う耐え難い程の
絶望の末路を他方、
憎い程の優美さを持って描き切る。
このオペラが名作の誉れを
欲しいままにしている所以とは
まさにそこにある。私は
今回、リサイタルで第一幕に
歌われるカヴァラドッシのアリア
【たえなる調和】を歌うが、これも
又、旋律家プッチーニの面目躍如、
この上ない【美】の結晶である。
もう何回歌った事か?
私自身、計り知れない。パワーと
情熱に溢れた気概を持って
臨まなければ、この歌はとても
歌えない。…っと言うより
このカヴァラドッシ役は決して
務まらない。このアリアの後、
トスカとカヴァラドッシの愛の
語らい。長大な二重唱が控えて
いる。何んと神々しくも優美な
時の流れだろう。
【美しい!】…っと言う言葉だけ
では言い尽くせぬ。私も過去幾度も
歌っているがこの素晴らしさを
表現する事は最早、文面では
なし得ない。この物語を成す全ての
主要登場人物がラスト、誰一人
として生きていない。
究極の悲劇がこのオペラの全容だ。
美しくも、はかなく透明で常に
限りない愛に満ち溢れた純真な心。
それを利用し、邪悪の限りを尽す
権力者の蛮行、深い愛はそれをも
跳ね除け、血の鉄槌を下す。
だがしかし、死しても尚、巨悪は
愛を貪り破壊する。愛も悪も
全てが相殺され何も残らない。
苛まれる人の感情を救う唯一の
力、それがプッチーニの音楽だ。
【歌に生き恋に生き。】そして
永遠の愛によって死ぬ。
歌劇「トスカ」は最も悲しく、
切なく、美しいオペラである。
全三幕、息をも、つかせぬ切迫感で
我々を魅了してやまない。
イタリアオペラ切っての
大作、プッチーニ作曲。
歌劇「トスカ」!。
どうぞ一度はご鑑賞の程を…。
【私が愛せしもの】こそ、全てが
まさにここに集約されている。
(ルチアーナ筆。)

★カヴァラドッシのアリア
もう一曲は第3幕、処刑を前に
歌う【星もきらめき。】である。
私はリサイタルの本プログラムに
この曲は入れていない。…が
もしもアンコールがあれば
そこで歌う…かも、である。
これも又、切なくも美しい名歌
として名高い…。