トゥーランドット”愛の行方。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

プッチーニの遺作にして
未完の大作、
歌劇「トゥーランドット」。
20世紀初頭イタリアオペラ創生の
絶頂期を彩ると同時に
その後はこれ以上の秀作は
追増生まれない。まさに終焉に
して永遠の名作だ。ベルカントの
伝統と旋律美、壮大華麗な
オーケストレーションによって
構成させる贅を尽くした
グランドオペラ。極限と思わしき
時として強靭、時として優美な
声の競演、イタリア歌劇の真髄が
これを最後に集約さた感を
抱かせる。作曲者プッチーニの
全知全能が込められた入魂の
傑作、歌劇「トゥーランドット」。
私は今秋のリサイタルで
このオペラの第一幕の
幕切れに王子カラフが歌うアリア
【泣くなリュウ!】を取り上げる。
ご承知の通り今作品では
カラフの歌うもう一つのアリア
【誰も寝てはならぬ!】が著名
だが、第一幕、非道にも次々と
若者の命を三つの謎の答えを
導き出せなかったが故に問答無用で
奪って止めどない冷徹な心を持つ
トゥーランドットの非情な
所行とは裏腹にその姿の麗しくも
冷徹に秘める美に一瞬の内に
虜となったカラフが父ティムールや
女奴隷なれどカラフをこよなく
愛する忠節の娘リュウの必死の制止
をも聞き入れず、新たにその謎に
挑戦の名を上げる。三つの謎解きは
即ち、トゥーランドットを自らの
妃に迎え入れる事を意味するが故。
この幕末、前半のまさに
クライマックスを迎えカラフは
自身の命をもかえりみず父とカラフ
の行く末を案じ身を呈して
つかえる健気な娘リュウに
心からの礼と今後の事を託し
その純粋な涙に想いを寄せ、
「泣かないでおくれリュウよ!
この挑戦は死への旅立ちでは
ないのだ。新たな明日への希望と
夢の実現への門出なのだ。
可愛いリュウよ。どうか父の事を
頼む。暫し未来の扉を
開くまで!。」…っと情熱を込めて
歌う。
これがアリア【泣くなリュウ!】で
ある。この名旋律はその後直ちに
大きなアンサンブルの渦の中に
同化し華々しくも悲愴感を秘め
壮大に終結する。この物語の
愛の形と行方をうらなう
重要な場面だ。
恐らくこれを聴いて心に
震えるほどの感動を覚える人々は
数知れず…!私はそう確信する。
物語の序章に当たる第一幕。
タイトルロールの
トゥーランドットはここには
まだ登場しない。
ただ美を誇る陰影を僅かに
提示するのみだ。第二幕冒頭、
あの長大華麗な超絶的
テクニックに裏打ちされた
名アリアと共にやっと
その姿をあらわにするまで、
まだ暫しその時を
待たねばならぬ。
これから始まる鬼気迫る運命との
闘いを前にカラフは謎への
挑戦をその合図たるドラの音と共に
高らかに宣言する。
歌劇「トゥーランドット」第一幕、
嵐の様に押し寄せる運命の歯車は
誰も止められぬ力に引き回され
突き進む。それを極限にまで
牽引し指し示すカラフのアリア
【泣くなリュウ!】
私はリサイタルでその片鱗を
本の少しではあるが体現して
みたい。ただ僅かであっても
体力がこのスペクタクルに
耐えうるか如何か、些かそれが
不安ではあるのだが…!。
まぁ~やるだけやってみよう。
それがお越し頂く全ての
方々への歌い手としての責任
なのだから…。しかも生涯最後の!。
(ルチアーナ筆。)

★私のリサイタルに関する情報の
詳細はH26.4/7付けの
ブログ記事をご参照下さいませ。